都会のオアシス
フセインモスク。白い大理石の床が眩しい。
僕たちの乗ったマイクロバスは、かなりのスピードで走っている。カイロには地上の道のほかに、東京の首都高速のような高架になったハイウェイがあるが、その上を走っているようだ。金曜日ということで道は比較的空いており、三十分ほどでダウンタウンに到着。ユキによると、回教の国では、金曜日が安息日、日曜日に当たるという。スミレに、
「フライデー・イズ・サンデー。」
と説明すると、訳が分からないので、目を白黒させている。
マイクロバスを降りて、少し歩く。気温が二十五度近くまで上がり、Tシャツ一枚になって歩く。右手に考古学博物館のピンクの建物と、ナイル・ヒルトンの白い建物が見える。僕たちは、一軒のファストフード店的な建物に入った。中は、ケンタッキー・フライドチキンやマクドナルドの店をもっと簡潔にしたような感じ。そこでコシャリを注文する。と言ってもそこはコシャリ専門店で、それ以外のメニューはないのだが。コシャリは、大阪の「きつねうどん」、名古屋の「きし麺」的な、エジプトの国民食だと、ユキの説明が入る。米、短く切ったマカロニ、同じく短く切ったスパゲティーに、乾燥タマネギ、豆、ひき肉などが混ざっており、酢とチリソースをかけて食べるとなかなかいける。
コシャリで腹いっぱいになった四人は、ユキの提案で、タクシーでバザールのあるハン・ハリーリ地区へと向かった。そこのバザールは五百年近くの歴史があるらしい。市場の近くには、野外のカフェなどがあり、人と車で溢れたカイロの街中でも、特に喧騒とカオスが支配している場所だった。二日後の日曜日、この場所で、爆弾テロがあり、フランス人の観光客のひとりが命を落とすことになるのだが。
その広場に面した回教寺院、フセインモスクに入る。モスクの入り口で靴を脱ぎ、日本のお寺の玄関にあるような木の下駄箱に入れて中に入る。女性は頭にスカーフを巻かなければいけない。マユミもスミレも、ユキからの事前の連絡で、ぬかりなくスカーフを用意してきている。モスクは、長方形の建物と、建物に囲まれた中庭から出来ていた。中庭には一面に純白の大理石が敷き詰められている。
周囲の騒音と喧騒から切り離された、静かな空間だった。空気さえも、モスクの中庭だけは澄んでいて、少し涼しいような気がする。庭の周囲は回廊になっており、そこには殆どが男性であるが、座ったり寝転んだりして、思い思いに時間を過ごしている。本当にグースカ眠っている人。お喋りをしている人。新聞を読んでいる人。コーランを広げ、熱心に暗唱している人。僕もその回廊に座って、数時間本を読んだり、瞑想に耽ったり、ウトウトしたりしたくなってきた。そこはまさに都会の「オアシス」のような場所だった。
正直、そこでゴロゴロしていたかったのだが、再び人ごみの中へと戻る。ハン・ハリーリのバザールの中へと入っていく。細い路地の両側に、間口が二メートルから三メートルの小さな店が、何百件、いや何千件と並んでいる。その中を歩いていると、本当に「アラブの国」に来たという実感がした。
回廊でコーランを読む青年。