鳩料理
レストランに向かう途中、花婿、花嫁の乗った馬車に出会う。
僕は元来「怠惰な旅行者」。どこへ行っても、観光は少しだけ、すぐゴロゴロしようとしてしまう。数年前に手術をして、その後体調に余計に気を遣わなくてはならなくなってから、その傾向に拍車がかかった。妻や子供たちと旅行しても、
「パパはここでお昼寝してるから、君たちだけで見てきなさい。」
というパターンが多い。おまけに、僕は雑踏が大の苦手と来ている。出張などで東京へ行って、朝に新宿や池袋の駅を利用せざるをえなくなったとき、いつも気分が悪くなる。
フセンイン・モスクを出てバザールの雑踏の中に入ると、とたんに疲れが出てきた。ユキとスミレは楽しそうにお喋りをしながら、人ごみのなかをスイスイ歩いていく。ふたりは本当に仲が良い。妻と僕がそれを追う。荷物を担いだ人や、荷車にぶつからないようにし気をつけながら。
土産物屋の前では、必ず、
「コニチワ」
と声をかけられる。無視して通り過ぎようとすると、
「チャイナ?コリア?」
と更に聞かれる。
スミレは今回来られなかった姉のミドリの土産に、エジプト象形文字のペンダントを買うことに決めたようだ。一軒の貴金属店の中に入る。僕は象形文字、ヒエログリフは日本の漢字と同じように表意文字だったと思っていた。つまり鳥の絵は「鳥」そのものを意味するというように。しかし、そうではなく表音文字だという。つまり、ミドリの別名「JULIA」を、それに対応した象形文字で書くことが可能なのだ。
ペンダントの文字が彫り上がるまで一時間かかるというので、またバザールの中を歩く。歩くにしたがって、土産物屋は少なくなり、服、布団、香辛料、電化製品、雑貨など、実用的な物を売る店が多くなる。もう「コニチワ」と声をかけられることもない。
一時間後、広場で一服している間に、マユミがペンダントを取ってきた。午後四時半、僕らはホテルに戻ることにした。地下鉄の駅まで、十五分ほど歩くのだが、夕方のラッシュのせいか、道は人と車でいっぱいだ。(カイロは一日ラッシュアワーのように気もするが。)「M」と書いた地下鉄・メトロの駅を見つけてそこから「エル・ギザ駅」まで乗る。相変わらず地下鉄の乗客は皆悲しい眼をしている。地下鉄を降りて、マイクロバスでホテルへ。
ホテルの部屋で少し休んでから、夕飯を食べに行くことにした。ユキとスミレが旅行案内書で見つけたエジプト料理レストランはピラミッドのすぐ傍。タクシーに乗る。途中、三台の馬車を追い抜く。馬車には三組の白いウェディングドレスを着た花嫁と花婿が乗っていた。結婚式を終え、披露宴に向かうところなのだろうか。馬車を追い抜く車がクラクションを鳴らす。(年がら年中鳴らしているとはいえ)それが礼儀らしい。
レストランで僕は、腹に米の詰まった鳩を食べた。意外と小さいので驚いた。
エジプト名物、鳩料理。以外に小さい。