クラクションとコーラン
案内してくれたユキの友人のマフダ君と昼食。
タクシーは市街に入る。大きな駅(後でラムセス駅という名前だと知る)の前を通り、ナイル河を渡る。夜十一時過ぎだと言うのに、通りは車と人で一杯だ。インドのマドラスに最初に降り立ったときにも、深夜なのに人出が多いので驚いた。その時のことを思い出す。
ナイル河の西岸に入り、ギザ地区に入る。ホテルがあるはずの大通りに沿って走るが、ホテルはなかなか見つからない。運転手は時々降りて、通行人に道を尋ねている。番地が建物に書かれていないので、今どの辺りの番地にいるのか、人に尋ねるしかないとのこと。その会話はアラビア語であるので、僕には見当もつかない。
ギザに入って、三十分以上経ち、同じ道を行きつ戻りつしているが、ホテルは見つからない。ホテルの住所は運転手に渡してある。そこには電話番号も書かれている。
「あんた、携帯持ってんだろ。ホテルに電話して聞きゃあいいじゃないか。」
僕が何度かめにそれを言う。彼はやっと電話を始めた。ホテルに通じたらしく、アラビアで何かを話している。ホテルは百メートル先の右側にあった。
運転手にチップを渡して、ホテルに入る。もう真夜中の十二時だ。六階に上がると、フロントから電話があったらしく、エレベーターを降りたところでマユミが待っていた。スミレとも再会する。
遅いのですぐ寝ようとすると、スミレが、
「パパ、耳栓をして寝たほうがいいよ。」
と言う。ホテルが大通りに面しており、道行く車が例によってクラクションを鳴らしまくるので、最初の夜はスミレもマユミも眠れなくて、飛行機でもらった耳栓をして寝たとのこと。起きているとそれほど感じないが、ベッドに入ると、確かにクラクションの音がビービーとうるさい。しかし、人間というのは環境にすぐ慣れる動物らしく、二日目からはそのクラクションの騒音が全然気にならなくなったのだが。
ホテルでの安眠妨害のもうひとつはコーランであった。ホテルの横がちょうど回教寺院になっており、一日に数回、大音量でコーランが流れる。イスラム教徒は、日に五回礼拝をすることを翌日ユキから聞いて知った。最初の夜明け前のお祈りの時間は午前六時前。その夜は二時ごろにやっと寝付いたと思ったら、早速にコーランで起こされた。
「アラーの神さん、堪忍してえな。」
金曜日の朝、七時ごろに起きる。カーテンを開けると、ピラミッドに朝日が当たっているのが見える。改めてエジプトに来たという実感が湧く。それほど遠くないようなので、朝の散歩にピラミッドまで行くことにして、ホテルを出た。しかし、ピラミッドは近そうに見えて実は遠くて、結局はそこまで辿り着けなかった。ピラミッドは巨大なのだ。
埃っぽい道を行く車を見ていると、どの車も多かれ少なかれどこかがへこんでいて、「五体満足」な車は一台もない。昨夜の運転手のF1レーサー顔負けの走りっぷりを思い出し、「さもありなん」と思う僕だった。
夜のナイル河。