豚インフルパーティー
デュッセルドルフ空港で荷物を降ろす係りのおじさん。手を振ると振り返してくれた。
一時間ほどで飛行機は高度を下げ、ライン河を飛び越え、デュッセルドルフ空港に着いた。小さな飛行機での旅もなかなか新鮮で楽しかった。
いつもなら、空港まで同僚で友人のデートレフが迎えに来てくれるのだが、彼は今休暇でスペインのマヨルカ島へ行っている。先週マヨルカ島では爆弾テロがあり、港と空港が閉鎖されていたけど、デートレフ一家は大丈夫だったかな。ともかく、デートレフの代わりに、今日は、日本人のナルセさんが来てくれるはず。三週間前に赴任されたばかりのナルセさんは、
「まだまだ勝手が分からなくて。」
と頭を掻きながら少し遅れて来られた。ナルセさんの運転で、ドイツ支社のあるメンヒェングラードバッハに向かう。
情報システム部に入ると、例によって、カロラとクリスティアンがいた。ふたりとはもう十年近く一緒に働いている、気心の知れた友達みたいな同僚だ。
「家族は元気?」
とふたりに聞かれたので、末娘が大学に行くと告げる。
「ひえ〜、あの小さな娘がもう大学生なの。」
九年前に一度、まだ幼いスミレに会ったきりのクリスティアンは驚いている。
「バスティは最近車の免許を取っているのよね。」
とカロラが言う。今度は僕が驚く番だ。バスティことセバスティアンはカロラの友人ウリの息子、カロラは彼の「名付け親」になっている。僕はドイツ赴任中に何度か彼に会い、当時小学生だった彼は結構僕になついていた。今でも僕はバスティにクリスマスカードを出している。その「おチビ」がもう運転免許!こちらも歳を取るのも無理はない。しかし、彼の母親は最近二回目の離婚をしたとのこと。彼も彼なりに苦労しているのだろう。
最近入った女性プログラマーのブリギッテが、
「お宅の子供さんはスワイン・フルー・パーティーやってないの?」
と聞く。「スワイン・フルー」とは「豚インフル」「新型インフルエンザ」のことだ。
「それ何?」
と逆に僕が尋ねる。ブリギッテとクリスティアンの話によると、最近「スワイン・フルー・パーティ」なるものを催す英国のティーンエージャーの話が、ドイツのテレビで放映されたという。「豚インフル」と診断されると、二週間登校しなくてよい。それで、友達に感染者が出たらその子と一緒に、パーティーをやる。キスとかハグとかバンバンやっちゃう。皆で感染して、皆で学校を休もうということらしい。英国に帰り、スミレに聞いてみたが、あっさり、
「そんなの知らない。」
とのこと。マスコミはどこでも、些細な出来事を大袈裟に報道するものらしい。
丸いカロラと細いブリギッテ。好対称。