スイッチが入ったままの僕
オバマさんも着いたスタンステッド空港。小さなプロペラ機に乗り込む。
タクシーの中で、僕はずっとアバの「The Winner Takes It All」を歌っていた。前日「マンマ・ミーア」の映画をDVDで見た。「マンマ・ミーア」はアバの曲が歌い継がれるミュージカル。その中で、主演のメリル・ストリープがこの歌を唄っていた。演技派の彼女だが、歌もなかなかお上手。何故この映画のDVDを借りたかというと、ギリシアのエーゲ海に浮かぶ島が舞台になっていたからだ。
クレタ島で、僕の頭の中の「スイッチ」が入ったような気がする。帰ってから、まずギリシアの映画を見始めた。最初は「日曜はダメよ」。ギリシアの文化、音楽、感性がよく分かる映画だった。僕はしばらくこのテーマ曲を歌っていた。美しい映像だったが、残念なことに白黒。そして、次に見たのが「マンマ・ミーア」。エーゲ海の色を見たい方は、是非この映画を見ていただきたい。ただ共演のピエルス・ブロスナンの歌はいただけない。友人のソニアが「カエルの声のようだ」と言ったのを思い出した。確かにその通り。
タクシーはスタンステッド空港に到着。チェックインを済ませる。今日デュッセルドルフまで利用するのは、「エア・ベルリン」というマイナーな航空会社。いつもは、会社の近くのヒースロー空港から「ブリティッシュ・エアウェイズ」か「ルフトハンザ」などのメジャーな航空会社を利用するのだが。最近は会社の不況対策、経費節減策が浸透し、おいそれとは有名航空会社の飛行機には乗せてもらえない。とにかく安い会社と便が選ばれる。
七時半出発なので、七時に搭乗口に向かう。いくらなんでもジャンボジェットは期待していなかったが、せめて小さなエアバス三二〇かボーイング七三七程度のジェット機だと思っていた。しかし、そこに停まっていたのは小さなプロペラ機、カナダ製の「ボンバルディア・ダッシュ四〇〇」という飛行機だった。五十人乗りくらいか。まあ、エアバスなんかは何時でも乗れる。たまに違う飛行機に、それもこんな小さいのに乗ってみるのも楽しかろう。僕はカメラをリュックから出して、飛行機の前で何枚も写真を撮った。
開いた扉が階段になっている。そこから乗り込む。間もなくブーンという昆虫の羽音のような音がして、プロペラが回りだし、飛行機は滑走路に向かって走り出す。滑走路を離れても、ジェット機のように「過激な」角度で上昇することはない。極めて穏やかに上っていく。
飛行機がドーバー海峡に差し掛かる。ジェット機よりもうんと高度が低いので、窓から見える雲の様子がいつもと少し違う。窓の外の雲海に、積乱雲がモコモコと成長しているのが見える。僕はそれを見て、何故か砂浜に作られ、放置された「砂の城」を思い出した。ヨーロッパ人は、砂浜へ行くと、必ず「サンド・キャッスル」、砂の城を作り始める。クレタ島の砂浜でもいくつもの「城」を見た。
しかし、どうも頭の中の「スイッチ」がまだクレタ島モードに入ったままになっているらしい。何を見ても、それに関係のあるものを想像してしまう。ホリデー中毒、エーゲ海中毒は相当重症のようだ。
砂浜に作られた城のように見えませんか。