最後の日光浴

 

レストランの前にタコが干してあった。

 

七月七日。いよいよロンドンへ戻る日。六時ごろに目が覚める。最後にもう一度日の出を見ようかとも思うが、もう三度も見たことだし、ベッドにいて体力の温存に努めることにする。

一昨日、カリヴェスの陶器の店で、手で彩色したオリーブの模様の皿を見つけた。ジンバブエ出身という白人のおばちゃんが、色々と説明をしてくれた。三十四ユーロと少し高いが、マユミはそれを買うことに決めたようだ。八時過ぎに、パンとその皿を買いに村へ出かけて行った。

今日は十時までに部屋を空けなくてはならない。九時から、スミレと荷造りを始める。マユミはまだ帰って来ない。母親の分もパッキングをさせられているスミレは、

「ママはこの忙しいときにどこへ行ったのよ。」

とブツブツ言いながら片付けをしている。着るものなどはポイポイとスーツケースに放り込んでいけばよいが、ハチミツ、オリーブ油、陶器類、醤油などは、新聞紙に何重にも包んで、更にビニール袋に入れてからになるので、結構手間がかかる。

十時前、大方の荷造りが終わった頃、マユミが戻り、母親に代わって「荷造り係長」になったスミレがマユミに噛み付いている。良い柄の皿がいっぱいあり、選ぶのに時間がかかったとのこと。ビールが三缶余ったが、本日から泊まる次のお客のために置いていくことにした。朝から三缶ビールも飲めないし、英国に持って帰るほどのものでもないし。

十時に荷造りが終わり、一階にあるひとつの部屋に荷物を持っていく。今日発つ客は、出発まで共同でその部屋を使うことになっていた。部屋には三々五々人が現れ、荷物を置いていく。

「おや、お宅も今日ご出立ですか。」

「休暇も終わりです。ちょっと寂しい気分ですな。」

そんな会話が交わされている。

その後、十時半に準備を終わり、タクシーの迎えに来る二時半まで、プールサイドで過ごすことにする。

「クレタ島で最後の日光浴だね。」

とか言いながら。マユミとふたり海に入り、百メートルほど沖の、いつもの黄色いブイまで泳ぐ。ブイの少し向こうにはカモメの群れが海に浮かんでいた。

昼過ぎになり、近くのレストランへ昼食を食べに行く。最後なので、昼間だがビールを注文し、僕はイワシの唐揚を注文する。塩味とたっぷりのレモンが、ビールに合う。勘定を頼むと、例によってデザートと食後酒、ラキが出てくる。

「まだ昼間なんやけど、最後の日やし、良いかっ。」

などと適当に理由をつけて、猪口に二、三倍ひっかけてから店を出る。真上からの太陽に砂浜は白く光り、セミがうるさく鳴いていた。

 

最後の日光浴を楽しむポヨ子さん。

 

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