ご先祖様の写真
タヴェルナに飾ってあった、ご先祖の写真。古い時計もよくマッチしている。
タヴェルナの中には古い写真がいっぱい飾られている。どれも、白黒の肖像写真。おそらく、食堂のオーナーの、両親、祖父母、曽祖父祖母、そのまた先祖なのだろう。ギリシア人はご先祖を大切にする人たちらしい。そこに写っているギリシア人の老人たちの顔が、その人物の人生を語っているようで、また何とも言えないくらい良い。
スミレがオナシスから白い花をもらう。強い香りのする花。良い香りだが、ちょっと箪笥の防虫剤っぽい感じもするが。タチバナの香りに似ている、と書きかけたが、僕はタチバナの香りをもう二十年以上嗅いだことがない。ともかく、その白い花を箪笥に入れておけば、中の洋服に芳しい香りがつきそうだ。
四時過ぎにタヴェルナを出発。また坂を下って、無事海岸に到着。最後の数キロは、高さが調整してあったサドルがガタンと下まで落ちてしまい、立ったまま漕いでいた。スミレは
「お尻が痛いよう。」
と言っている。
海岸で解散する前、参加者全員で記念撮影。皆それぞれに挨拶と握手を交わして別れた。このツアーに参加して良かったと思う。自転車で坂を駆け下りるのも気持ちがよかったが、行く先々でガイドのオナシスの説明が興味深く、為になったからだ。
自転車が五十四キロメートルと、歩きが八キロメートル。心臓にハンディのある僕にしては、よく持った方だ。しんどくなれば途中でリタイアしようと考えていたのに。しかし、今日のメンバーは一緒に行動するにはちょっとフィット過ぎる、元気すぎるメンバーだった。特にオランダ人のふたりは歩くのも、自転車を漕ぐのも速い。
「あなたも、よく付いて行ったわね。」
と妻が褒めてくれた。
「今まで内緒にしてたが、実は、あんたと結婚する前、僕はフランスでツール・ド・フランスを目指していたんだよ。」
とまたボケておく。
レストランで夕食を取ったあと、浜を歩いているとき、
「ずっとこの島に居たいわねえ。」
とマユミが言う。その通り。十日もこんな天気の良い場所にいると、もうロンドンに戻りたくなくなってしまう。
「天気は良いし、新鮮な刺身は食えるし。」
海岸通のカフェを見ると、ウィンブルドンの番組をやっていた。その画面で見る限り、観客は皆軽装だったので、きっとロンドンも天気は良いのだろう。
その夜眠っていると、不整脈が出た。心臓が三回ほど打ってはひと休みする。ちょっと頑張りすぎたようだ。明日は完全休養しようと思う。
ツアー参加者で、最後に記念撮影。左端の太ったお兄ちゃんが結構速い。