不整脈と天の川
オナシスにもらった良い香りの花。
七月五日。夜中に不整脈が出て薬を飲んでも治らない。気になって眠れないので、外に出てみる。降るような星が美しい。白鳥座、鷲座、夏の大三角、天の川が見える。
昨夜はカリヴェスのレストランの海に張り出した舞台のような、(つまり鴨川の床のような)テーブルで夕食をとった。食べているうちに辺りが暗くなり星が出だした。僕が、どれが北極星でどれが火星か、星に関する「ウンチク」を垂れ始めると、子供たちは全然信用しない。
「こんなに沢山星があるのに、どれがどれか分かる訳がない。」
と言うのが彼らの言い分。しかし、分かる人間には分かるのだ。
学生の頃、山登りが好きだった僕は、陸上部にも属しながら、同時に「独文科山の会」にも属し、よく山に登った。そのとき、僕は山の上で見る満天の星に感激した。北アルプス、白馬岳の上で見た星は今でも忘れられない。そのときに、僕は代表的な星座と星の名前を覚えたのだ。したがって、北極星、ヴェガ(織姫星)アルタイル(彦星)くらいは今でも見分けられる。
その日は、銀河、天の川がきれいだった。その両側にある一際明るいヴェガとアルタイルを見て、昔の人が七夕の物語を思いついたのも納得がいくような気がした。そう言えば、明日は七夕だ。
薬を飲んでも不整脈はなかなか治まらず、それが気になり余り眠れなかった。今日は一日部屋に居て疲れを癒すことにする。朝食後、マユミが浜に出たので、彼女を追って浜に出てみる。心臓の鼓動を抑える「ベータブロッカー」という薬を飲んだので、心臓がゆっくりしか打たず、何をするにも大儀だ。浜に出ると、マユミが、髪の毛の長いお兄ちゃんと石投げをして遊んでいる。石を水の上で何度バウンドさせるか、競争をしているみたいだ。この勝負、傍目にみても、髪の毛の長いお兄ちゃんに勝ち目がある。
何と、お兄ちゃんは全然、英語が喋れない。
「どこから来たの。」
と日本語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、スペイン語、イタリア語、スウェーデン語で尋ねると、下手な鉄砲も数打ちゃ当たったのか、
「シリア・アラビカ」
と言ったので、かろうじて、彼がシリアの人間で、アラビア語で話していると理解ができた。しかし、そんな状況の中、そのお兄ちゃんと仲良くなり、石投げ競争をしてしまうマユミの社交性には脱帽する。
午前中ずっと横になっていたら、昼頃にようなく不整脈が治まった。やれやれ。しかし、その日は、プールサイドで寝そべりひたすら休養。身体を冷やしに水に入るだけ、泳がない。でも、英国から来た、ホリデー客の七十五パーセントは、プールか海に入って日光浴をすることしかやっていない。本来ならばこれが「正しい」バカンスの過ごし方なのだ。
ここで食事をするのは、鴨川の床で散財するのと、良い勝負。