バイクは自転車

 

海軍基地のあるソウダ湾へ向かう軍艦。アパートの窓から見える。

 

七月四日。昨夜は疲れていたので、夕食の後、ブラックアウト状態で眠る。夕食は前日買ってきた魚介類を使い、ムール貝とエビのクライムチャウダーとクロダイのソテーを作った。どちらもニンニク、オリーブ油を、たっぷり使う。魚は不飽和脂肪酸、善玉コレステロールを含むというが、オリーブ油にもコレステロールを抑える働きがあり、クレタ島の人たちはオリーブ油に魚介類で、皆長生きだという。僕たちもこれからはクレタ人を見習って、「地中海風ダイエット」でいこうと思う。

今日はサイクリング・ツアーに申し込んでいた。朝七時にアパートを出て、アギア・マリナにある、ツアーを主催する自転車店「ヘラス・バイク」へ行く。アギア・マリナは、観光客用のホテル、レストラン、クラブ、カフェなどが立ち並び、僕たちの滞在するカリヴェスとはうって変わって賑やかな場所だった。早朝なので、ジョギングをしている人たちを除いて、人通りは少ない。

店の裏庭に車を停めると、ふたりの男性が「バイク」、つまり自転車を運搬車に積み込んでいた。英国英語で「バイク」は普通の自転車を指す。オートバイは「モーターバイク」だ。便宜上「サイクリング・ツアー」と書いたが、実際は「バイク・ツアー」という名だ。

運搬車には十三台の自転車が積まれた。それをマイクロバスで引っ張っていく。僕たち家族四人の他に、日焼けしていかにもスポーツ大好きという感じの夫婦一組が乗り組み、お客六人と、ふたりのガイドで出発。積み込んだ自転車の数からすると、まだ誰か乗ってくるはず。そう思っていたら、途中で三人を拾い、合計十一人を乗せ、マイクロバスは山へ向かう。

数日前サマリア峡谷へ行ったのと同じ道を辿る。両側はオレンジの畑だ。運転をするギリシア人のオナシスは観光案内もやる。なかなか達者な英語だ。

「クレタ島では夏の間雨が降りません。雨が降るのは秋から冬から春先にかけて、その間に山は雪で覆われます。クレタ島の山々は水の染み込みやすい砂岩で出来ていて、降った雨や雪はまずスポンジの働きをする砂岩層に吸い込まれます。その地下水が、夏の間に利用されるのです。このオレンジは週に二回、地下から汲み上げられた水が撒かれています。」

淡々と、そんな説明をしてくれる。オリーブの木は、夏の間、四ヶ月も水なしで過ごすそうだ。雨が降り始める秋になりに、オリーブは実を結び、冬に収穫が行われる。クレタ島には、三千万本のオリーブの木があり、ギリシア最大のオリーブ産地であると同時に、ギリシア最大のオリーブの消費地でもあるとのこと。まさに「オリーブの島」と言うわけ。

収穫したオリーブは、最初常温で絞り「エキストラ・バージン」オリーブ油を取る。次に加熱して「セカンド・バージン」を取る。その後料理用のオリーブ油が絞られ、

「最後に残った『カス』がイタリアへ輸出されます。」

とオナシスは言った。これはもちろん冗談。イタリア産のオリーブ油の品質が劣悪なのを揶揄したわけだ。イタリア人がこのツアーに参加していないので言える冗談だ。

 

「バイク」を運搬車に積み込み、さあ出発。

 

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