おやじのおじや
カリヴェスの村。こじんまりした場所。パン屋と肉屋はあるが魚屋がない。
七月三日。昨夜作った魚のスープを温め、冷ご飯を入れて食べる。この「海鮮リゾット」はうまい。マユミが起きてきた。
「何食べてるの。」
「おやじがおじや食べてるの。」
と答えておく。
また絵を描き始める。絵の方はどうも進まない。五、六枚で休暇がお終いになりそうだ。
十時半ごろに車でアパートを出て、クレタ島で最大の淡水湖であるという「コウルナ・レイク」へ行く。途中に道に迷うが一時間ほどで湖の畔に着く。一周三キロ半の小さな湖だが、山が岸まで迫って、かなり深そうだ。「この湖は底なしである」という伝説さえあるそうだ。たくさんのボートが浮かんでいる。
カヌーとペダリングボート(ふたりが座って、自転車のようにペダルを漕ぎながら進むボート)を借りる。ワタルとスミレはこの前からカヌーに乗りたがっていたので、ちょうど良い機会だ。僕とマユミはペダリングボートに乗って子供達の後を追う。ペダリングボートには屋根がついているが、カヌーはなかなか暑そうだ。しばらくすると、ワタルもスミレもポチャンと水に跳び込んで涼を取っている。一度降りると、水の中でグラグラするカヌーに乗り込むのは結構難しそうである。
スミレが代わってくれるというので、スミレはカヌーからボートに向かって泳ぎ、僕はボートから水に飛び込む。水はきれいだが暖かい。というより生ぬるい。海のシャキッとして冷たさが懐かしい。ともかくカヌーに乗り込み、オリンピックのスラロームを見て覚えた要領で漕いでみる。
「結構上手やん。」
とボートに上からマユミが言う。
「実は今まで秘密にしてたけど、あんたと結婚する前、カナダでカヌーに乗って鮭を採っててん。」
つっこまれると何かボケないと気の済まないのが関西人の性なのだ。
デッキチェアを借りたお兄ちゃんはアルバニア出身だと言うし、貸ボート屋のお兄ちゃんはグルジア出身だという。観光客だけではなく、サービスする方も、皆いろいろな場所から来ているのだ。
一時間ほどして、岸に上がり、持って来たサンドイッチで昼食にする。何故か非常にバテている。湖の畔は風が届かないので暑いし、水に入ってもぬるい。おまけに水が切れた。四時半頃に湖を撤収し、海岸へ向かう。海岸で、涼しい海からの風に吹かれ、冷たい水を飲んで、ようやく生き返ったような気になる。
海岸には堤防があり堤防の先に白くて小さな礼拝堂が設けられている。船の安全を祈るものだろうか。マユミはそこまで歩いて行ったが、疲れていてそこへ行く元気もない。
湖でカヌーをする子供達。水面が穏やか過ぎて、あまりスリルがない。