筋肉痛の一日
昔ながらの漁村。青と白のコントラストが美しい。
七月一日。昨日は一日中動き回ったので、完全休養日。今日こそはどこへもいかない、何もしないと決意。しかし、またまた朝五時半に目が覚めてしまった。しばらくして、太陽が昇る。そうなるともう眠れない。他の三人は死んだように眠っている。眠っている妻と子供たちを起こさないように、抜き足差し足でベランダに出て、娘のミドリと、友人たちに手紙と絵葉書を書き始める。
昨日は十八キロをかなり無理して歩いたので足が筋肉痛だ。不思議なもので、下り坂の筋肉中は足の前面に出る。子供たちが起きてくる。彼らは比較的元気で、今日もどこへ行こうと相談している。元気な人たちだ。
「パパは今日は疲れているから、休養のためにずっとアパートに居る。」
と宣言をする。
「今日も良い天気なのに。」
と、スミレがブツブツ言っている。
「スミレちゃん、ここは『いつも』良い天気なのだよ。」
昨夜、ハニアで車に乗ろうとした際、誰かが左側、つまり運転席側のドアがこじ開けられているのに気がついた。左側のドアから、車のロックができない。レンタカー屋に電話をすると、代わりの車を持って来るという。十時に代わりの車が到着。持ってきてくれた親爺に、
「昨日ハニアに車を停めていたら、ドアが壊された。」
と伝えると、
「ヴェネチアン・ハーバーだろ。」
と言う。
「どうして分かるの。」
「あそこで皆やられるんだよね。」
と彼は言った。新しい車は水色のヒュンダイ。同じ車種。色がシルバーから水色になった。
午前中、マユミは浜へ、ワタルとスミレはプールで過ごしている。プールの中にいるワタルに外からボールを投げ込んでやる。大学で水球部だった彼は、器用に片手でキャッチして片手で投げ返してくる。胸まで水面に出ているが、足は底についていない。立ち泳ぎをしているのだ。昨日あれだけ歩いたのに元気なヤツ。昨日は火曜日、アパートに新しい客が到着し、プールではフィルによるオリエンテーションが行われている。
正午過ぎ、マユミと子供たちは、第二次世界大戦中、この島で死んだ兵士の共同墓地を訪れると言って車で出て行った。山がちで海が美しいクレタ島は、ガダルカナル島に似ていると思ったが、奇しくも、第二次世界大戦中ふたつの島は同じような運命を辿っていた。激戦地となったクレタ島でも、何千人という兵士が亡くなった。隣町で軍港のあるソウダの町に連合軍の兵士の墓地があり、更に西へ行った場所にドイツ軍の兵士の墓地があるという。
花畑のようなドイツ軍兵士の共同墓地。