高速道路沿いの物売り

 

途中スイカを満載したトラックに出会う。

 

六月二十七日、イラクリオンのクノッソス宮殿を見に行くことにする。僕たちの滞在しているカリヴェスは、横に細長いクレタ島の西側。島の中央から東よりにあり百三十キロも離れたイラクリオンまでは片道二時間以上。かなりの強行軍となる。しかし、歴史の教科書にも出てきた「ミノア文明」、「クノッソス宮殿」という言葉は、僕にとってとても魅力的に響いた。子供たちは、

「ええっ、そんな遠い所まで行くの。」

と不満そうだ。しかし、彼らを説得する材料ができた。カメラのレンズだ。クレタ島の「首都」イラクリオンに行けば、レンズを買える可能性が高い。今回、四人の中でカメラを持っているのは僕ひとり。したがって、僕のカメラが使えなければ、新しいカメラを買わない限り写真が撮れなくなる。「フェイスブック」(日本の「ミクシィ」のような会員制のウェッブサイト)に常に「最近の写真」を載せているふたりの子供たちにとって、写真があるかないかは、彼らなりに重大事項なのだ。それで、この日のイラクリオン行きはあっさりと許可された。車に乗り、走り出してから、

「よく考えたら、近くのハニアで新しい小さなカメラを買えばいいじゃん。」

とワタルが言う。

「使い慣れた自分のカメラで撮りたい。」

この「カメラ好きおじさん」の気持ちは、彼には理解できないようだ。

午前九時にカリヴェスを出発。高速道路に乗り、今回は東に向かう。さすがに往復三百キロ近くを独りで運転するのは辛い。しかも、ここ数日間、連日の長距離運転だし。今日からはマユミにも運転してもらうことにする。狭い道はまだ心配なので、高速道路に乗るまで僕が運転し、高速道路で運転を代わる。いきなり高速道路を運転させるのは、ちょっと無謀のような印象を受けるかもしれない。しかし、信号もなく真直ぐな道を、ギアチェンジもなしにひたすら突っ走れる高速道路、実は一番運転し易い道なのだ。最初ギアチェンジに苦労していたマユミも、クレタ島第三の都市、レシムノを過ぎる頃には、かなりスムーズな運転ができるようになった。

車はあるときは海岸沿いを、あるときは山の中を、ひたすら東に向かう。「高速道路」の道端で、特産品のハチミツやオレンジを売っている人たちがいる。このあたりの「いい加減さ」がいかにもギリシアらしい。道の両側のピンクや白い花は相変わらず目を楽しませてくれる。

 イラクリオンの町の直前で、また運転を交代する。僕が運転手。高速道路を降りて、ヴェネチアの城壁を潜り市街に入る。ヴェネチア風の城壁に囲まれた市街。例によって道は狭い。車が小さなヒュンダイで良かったと思う一瞬。高速道路を走っているときはこの車が英国で普段乗っているBMWだったら良いのにと思ったのに。旧市街の駐車場に停める。駐車料金は一時間で五ユーロ。結構高い。急いで「仕事」を片付けなければならない。

 

イラクリオン、「モロシニ」という縁起でもない名前の噴水の前で。

 

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