地上の楽園
これまで見たどの海岸よりも美しかったエラフォニシ。
ファラサルナから更に一時間車で走って、エラフォニシに着く。そこは僕が生まれてこの方見た中で、一番美しい海岸だった。真っ白い砂、エメラルド色の海、水も、砂も、空気も、あくまで清潔。「この世の楽園」チックな場所だった。駐車場から海岸に出る。その海岸自体もきれいなのだが、そこから海を渡っていく島がまた美しい。
半島と島の間の「海峡」は幅三十メートル深さ五十センチ。そこをジャブジャブ渡っていくのだ。弁当とカメラを濡らさないように注意しながら。
昼食の後、水に入る。本当に透明度の高い水。白い砂が透けて見え、顔を水に漬けると辺りが翡翠色に見える。ここはクレタ島でも抜群の人気を誇る場所と見え、大勢の海水浴客で賑わっている。実に色々な言葉が周りから聞こえてくる。しかし、日本人、アジア人にはお目にかからない。最近腹が出てきた息子に、
「皆、きみのことを日本のお相撲さんが来たと思ってるよ。」
と言う。息子は調子に乗って、水中で、仕切りと四股の真似をしている。
潮が引いて、十センチくらいの深さになっている部分ができている。そこの水は砂に温められて、横になると風呂に入っているような気分になる。ワタルとスミレはそこの砂を掘り、「自分専用の風呂」をこしらえている。二十分ほどで風呂は完成。ふたりで仲良く浸かっている。僕とマユミは島の砂丘の中を歩いてみる。僕はサンダルを履いてきたが、裸足のマユミは足の裏が暑いという。
家族の誰もがその場所を気に入ったようだ。僕も、この場所に来るだけでクレタ島を訪れてもよい場所だと思った。
最後に皆でひと泳ぎして、四時半にカリヴェスへ向かって出発する。
アパートに戻り、今日は僕が夕食を作る。イカとサラダ、それと「クレタ島名物オリーブご飯」。僕が「発明」して勝手に名づけたのだが、米に、オリーブの実と、オリーブ油と、塩を少々加えて炊いた炊き込みご飯。なかなか好評だった。
カメラのレンズに塩がついていたので、夕食の後、外して掃除しようとする。その時、タイルを敷いた床の上にレンズを落としてしまった。慌ててレンズをカメラに装着し、スイッチを入れるがレンズは作動しない。従って写真が撮れない。しまった〜。スミレに「病的」と言われるほど写真マニアの僕にとって、これは大きなショックだ。
幸い、僕のカメラ「ニコンD四〇」は誰もが持っているベストセラー機、クレタ島でも、大きな町なら、レンズだけも手に入ると思う。いや、それを祈る。
とりあえず、その夜は「地上の楽園」のイメージを頭に、眠ることにする。
ラグーンで自分たち専用の「お風呂」を作るワタルとポヨ子。