クレタ島高速道路事情
高速道路の両側にはピンクの花が咲いている。
九時前にアパートを出発し、高速道路に乗る。高速道路の両側には、ピンクと白の花が植えられていて、ドライバーの目を楽しませてくれる。日本の名神高速などは、市街地を走っているせいもあるが、両側が防音壁で囲まれ、全然景色が見えない。あれは極めて無粋だ。コンクリートの壁の間を走るのは最悪。せめてクレタ島を見習って、花など植えて欲しいものだ。
このクレタ島の高速道路、不思議な作りになっている。「片側一車線半」なのだ。普通の車線よりやや広い車線があり、両側は路肩になっている。遅い車は路肩ギリギリのところを走り、速い車は中央線ギリギリのところで追い越していく。つまり、普段は一車線だが、追い越しのときだけ二車線に機能する。お金をかけず、なかなか合理的なやり方だと感心する。
運転しながら、例のギリシア民俗音楽のCDをかけている。子供たちが、別の音楽にしてよという。それでラジオに切り替える。ギリシア語の放送局、さっぱり分からないギリシャ語のDJで、ギリシアの歌謡曲が流れ来る。ある局でポップスを流していた。英語の曲で、男のような女のような甲高い声が聞こえてきた。
「誰、これ。」
と僕が聞くと、
「ええっ、パパこれ知らないの。マイケル・ジャクソンだよ。信じられな〜い。」
とふたりが呆れている。僕はクラシック音楽専門、マイケル・ジャクソンとマイケル・ジョンソンの区別もつかない人間なのだ。曲が流れた後、ギリシア語で何かアナウンスが入っている。後で知ったのだが、その日、マイケル・ジャクソンが亡くなったのだった。しかし、ラジオもテレビもインターネットもない生活、そのニュースを知る手段がない。
高速道路が終わり、カーブの多い山道に入る。最初の目的地、ファラサルナが近づいてくる。崖の上からファラサルナの町が見える。青い海に突き出た岬、そこに打ち寄せる白い波紋が美しい。野菜を作っているのだろうか、ビニールハウスが沢山見えた。
舗装をしていないデコボコ道を時速十キロで進む。両側はオリーブ畑。オリーブは乾燥に強い植物。水をやらなくてよいのかと思っていたが、やはり水をやるための黒いホースが、木の下に敷かれている。それが地面にのたくる蛇のようだ。
ファラサルナは海に面した要塞の廃墟だった。マユミと子供たちが、海に突き出した岩に登っている。岩は尖っていて、手で触れると痛い。僕も反対側の岩に登ろうとするが、途中でバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。必死で両側の岩を手で握る。手のひらが痛い。しかし、こんな所で後ろ向けに落ちたらまず命はない。
こんな断崖絶壁で岩の多いところでも羊が放牧されている。羊を観察していると、どの草でも手当たり次第食べているわけではない。美味しいと思われる草を選んで食べている。その草が岩の途中にあったりすると結構危険を冒して食べに行っている。
何もないのが感動的なファラサルナの遺跡。