テオドラキス・ハディダキス・クサルカコス
ビザンチン時代のモザイク。ハニアの考古学博物館で。
大学の卒業試験の結果を確かめるために、ワタルがインターネットカフェにいる間、教会を訪れる。ギリシア正教の教会には、カトリックの教会にように立体的な像はない。その代わり、金色が基調となった無数のイコンが掛けられていた。そのイコンのレプリカが、外の土産物屋で売られている。インターネットカフェから出てきたワタルに、試験の結果を聞く。まだ出ていなかったとのこと。
考古学博物館に入る。中は涼しくて気持ちがよい。三世紀頃、ビザンチン時代に作られたモザイクが美しい。
クレタ島の最初の文明、いや人類にとってもエジプトと並んで最初の文明であるミノア文明時代の土器が展示してある。紀元前二千年、つまり、今から四千年前のものだ。エジプトでピラミッドを見たときにも感じたが、キリストが生まれてから現在までの嫌になるくらいの永い歳月を、更にもう一度遡った頃なのだ。その頃、エジプトやギリシアの人々は既にかなり文化的な生活を営んでいた。それには驚かざるを得ない。日本ではその頃、人々はどんな生活をしていたのだろうと考えてしまう。
市場へ行くために街を横切る。途中、音楽のCDを売っている店があった。記念にギリシアの音楽のCDを買いたい。あれこれ探していると、スミレは
「そんなの買って本当に聴くの。」
と半信半疑。
「大丈夫。明日からレンタカーを借りるし、運転しながら聞くから。」
と答える。しかし、全然知らない音楽を選ぶは難しい。迷っていると赤いシャツを着た店員と思しきお兄ちゃんが来て、
「これにしなよ。」
と一枚のCDを薦めてくれた。「テオドラキス・ハディダキス・クサルカコス・ベスト・ギリシア民族音楽集」というやつ。それを買うことにする。
僕は知らない土地に行き、レストランに入り、何を注文してよいのか分からないとき、よく、ウェイターやウェイトレスに、
「この店の、今日の『お奨め』は何?」
と聞いて、それを頼むことにしている。その手でこれまで余り「外れた」ことがない。今回も、赤シャツ兄ちゃんのご推薦CDが「当たり」であることを期待しよう。
「アゴラ」、市場は閉まっていた。と言うか、町全体の店が閉まっている。後で知ったことだが、土産物屋や会社組織のスーパーマーケットを除いて、個人営業のクレタ島の店は、皆午後一時半ごろに閉まってしまう。その後、長いシエスタ(昼寝)の時間があり、夕方遅くにまた開く。スペイン、ポルトガルのスタイル。つまり、買い物は午前中か夜が勝負、午後は買い物ができない。まあ、島全体がそのリズムで動いているのだから、誰も不便や不自由を感じないのだろう。
スーパーマーケットで買い物。どのパスタにしようかな。