妻が予約してくれたクレタ

 

高島屋の包装紙を思い出せる庭のバラ。

 

六月二十三日。五時前に起き、庭の花に水をやる。今日から二週間ギリシアのクレタ島で過ごすため家を空ける。留守の間ロンドンの天気は分からない。でも、大体予想はつく。と言うのも、先週から、ウィンブルドンでテニスの全英選手権が始まっているからだ。この選手権は雨に祟られることが宿命。それで、今年からセンターコートには開閉式の屋根がついた。ともかく、たとえ二週間全然雨が降らなくても、こうしてたっぷり水をやっておけば、二、三日は違うはず。しかし、この時期の英国、まさかずっと雨が降らないことはないとは思うが。

五年以上生きていた金魚が数日前から死にかけている。でもまだ生きている。彼あるいは彼女を見るのもこれが最後だろう。妻のマユミが別れに最後の餌をやっている。もう余り食べないようだが。

六時半に末娘のスミレと長男のワタルを起こす。家を出て暮らしている長女のミドリは、今回も帰って来られなくて休暇に参加できない。ワタルは二週間前に、大学の最後の学期を終え、ウォーウィックからロンドンに戻ってきていた。

七時に荷物とワタルを乗せて、車で一分の最寄り駅「ミルヒル・ブロードウェイ」に向かう。彼と荷物を降ろして、一度車を家に置きに戻り、スミレとマユミと三人で歩いて改めて駅に向かう。

電車に乗る。空を見る。雲が多いが青空も見える。最近肌寒く、カラリと晴れることがない。

「今日の天気はどうかしら。」

とマユミが言う。

「いいじゃない、どうだって。どうせ午後にはクレタ島にいるんだから、ロンドンの天気なんて関係ないよ。」

と笑って答える。とりあえず、今日の天気を心配するところが彼女らしい。

考えれば、四月の終わりから五月の中旬まで二週間休暇を取り日本へ一時帰国、その後一ヶ月余り経っただけでまた二週間の休暇。今回の旅行の口実は、長男のワタルが大学を卒業し、末娘のスミレが大学入学資格試験を先週終えたお祝いということになる。幸い(などと書くと叱られるが)不況で仕事が少ないので休みやすいのは事実だけど。忙しい時期だったらこうは行かない。休暇から戻ったらオフィスに自分の席がなくなっているかも。ともかく、二ヶ月の間に二週間に渡る休暇を二度。日本の皆さんと、失業中の皆さんには申し訳ない気がする。

この旅行を企画したのは妻だ。彼女がインターネットを使い色々と調査をし、時期と場所を決定し、同じくインターネットを使って予約を入れてくれていた。そのために毎晩結構長い間、彼女はパソコンの前に座っていた。自称「ホリデー予約のプロ」により企画された旅行。「マユミが予約してくれたクレタ」ということになる。

 

セント・パンクラス駅で乗り換えの電車を待つ。

 

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