ホリデー便の雰囲気について
タラップを上ってこれから出発。降りる時にはコートは不要。
セント・パンクラス駅で電車を乗り換える。大型スーツケース二個、中型一個、大きなスポーツバッグ一個の大荷物を電車から降ろし、また電車に乗せる。午前九時前にガトウィック空港に到着。僕たちの乗るモナルク航空のチェックインカウンターには既に長い列が出来ていた。その列の最後尾に着く。列は次第に短くなるが、僕たちの後ろには誰も来ない。ということは、僕たちは「遅れてきた乗客」らしい。
トロリー(手押し車)に荷物を乗せている。その上に何故かワタルが座っている。列が進むと、トロリーを、ワタルを乗せたまま前に押す。彼が小さいとき、スーパーや空港でよく荷物と一緒にトロリーに乗せていたことを思い出す。
「二十二歳になっても、きみは小さい頃と同じことをやってるね。」
とワタルに言う。
チェックインを済ませ、搭乗口からバスに乗って、飛行機の前まで行く。いつも思うのだが、ブリッジで建物から直接飛行機に乗り込むよりは、タラップを一段ずつ上り飛行機に乗り込むほうが、絶対に感慨深い。タラップを上るマユミを下から写真に撮る。
飛行機はエアバス三〇〇型。モナルク航空は、英国と、ギリシア、スペイン、ポルトガルなどのホリデーリゾートを結ぶ航空会社だ。飛行機の座席レイアウトも、ホリデー客用に徹底している。一切の仕切りが取り払われ、小さめの座席がギッシリと詰め込まれており、まるでフェリーに乗っているみたい。目一杯で三百五十人くらいは乗れるようになっている。つり革を持って立っている乗客がいないことを除けば、雰囲気はバスと変らない。
機内での飲み物は有料だ。飲み物や軽食をトロリーに乗せて販売しているお姉ちゃんたちを見ると、スチュワーデスというよりも、JRの車内販売員を思い出してしまう。
「敦賀名産小鯛の笹漬け〜、福井名産羽二重餅はいかがですかあ〜。」
三時間半の飛行の後。飛行機はクレタ島、ハニア空港に着陸。窓から紺碧のエーゲ海が見える、はずなのだが、横に九席並んだ真ん中に座っているので、景色は何も見えない。着陸前、ハニアの気温は二十八度と案内があった。暑くもなく寒くもなく、程好い気候だ。飛行機を降りるとロンドンとは全然違う、じんわりと暖かい空気に包まれる。リゾート地に着き飛行機から外に出たとき、出発地とは違う空気に包まれるのは気持ちの良い一瞬だ。
荷物がなかなか出てこない。これはホリデーリゾートの空港によくある現象。普段は定期便もほとんどない小さな田舎の空港に、突然三百五十人を乗せたエアバスが到着する。一機だけではなく、横を見ると同じ大きさの別のエアバスがもう一機停まっている。しかも、旅客の多くが長期滞在客。皆が制限ギリギリの荷物を持って乗っているのであるから。荷物降しに時間がかかるのも当然だ。
四十五分ほどして、ようやく荷物を受け取り外に出る。東部ヨーロッパ時間では午後五時。ロンドンはまだ午後三時だ。旅行会社の現地駐在員の出迎えを受け、彼らの手配したタクシーでホテルへ向かう。
バスと変わらないエアバスの機内。