ワイン色の海
コスタブランカの日の出。地球上どこでも変わらないが、やっぱり美しい。
岬の灯台から戻った妻と僕は、風呂に入りビールを飲んだ後、夜八時過ぎにポヨ子を連れて食事に出た。一昨日のレストランはイマイチだった。安手のレストランを選んだのが敗因であると僕らは分析した。今日はひとつ「金に糸目をつけず」「ポッシュな」レストランを試してみようと言うことになり、それらしきレストランに入る。前菜に蛸を頼み、メインは飽きもせずまたパエリア。蛸は柔らかく、パエリアも一昨日よりはましだった。しかし、自分で作った海鮮おじやの方が、まだ数段勝っているという印象。おまけ夜中に下痢で目が覚めた。
翌朝は八時前に起きる。夜にはロンドンに戻らなくてはいけない。しかし、飛行機のアリカンテ発が午後七時半なので、今日はまだフルに遊べる。
ヴェランダ越しに外を見ると雲ひとつない天気。「完璧な」日の出が予想できる。寝ている妻と娘を残して外に出て、遊歩道を歩く。上半身、特にわきの下とか、変な場所が痛い。昨日、足だけではなく手も使って、岩を登った影響らしい。
空の上には雲がないのだが、水平線上にはわずかな雲の層があり、雲の上からの日の出となった。日の出の直前、湾全体がワイン色に染まる。そして最初のオレンジ色の光が、岩山と、海岸沿いの建物を照らす。日の出は何回眺めても良いものだ。
ブルドーザーが海岸に打ち上げられた海草を集めている、海草はほんど一種類、平たい茶色の「きし麺」のような形をしている。ブルドーザーが巨大な櫛のようなもので砂浜を削っていき、海草を集めた山を作っていた。
九時前にアパートに帰り、飯を炊き、インスタント味噌汁を作る。「プロシュート」、生ハムの薄切りが残っていたので、熱々の飯に乗せて、海苔と一緒に食べる。アンチョビーもよかったが、生ハム、海苔、ご飯というコンビネーションもなかなかオツなもの。
朝食後、急いで後片付けと荷造りを済ませる。アパートには午後まで居てよいとのこと。シーズン中だと、次のお客さんを入れるために、客は最終日、午前中に追い出されるのだが、今は、オフシーズン。アパートは二十パーセントくらいしか部屋が埋まっていない。出発が午後になっても、後から来る客のための準備が遅れるという心配は皆無だ。
荷造りをしたあと、十時半ごろに海岸に出る。相変わらず快晴。気温も二十五度くらいでまことに気持ちが良い。デッキチェアーを二つ借りて、ポヨ子とふたりでその上で本を読み出す。妻はシートを敷いて、日光浴を始める。これが夏だと、こんなのんびりはしていられない。間もなく暑くてたまらなくなり、日陰に避難するか、水に飛び込むことになる。しかし、秋の太陽と二十五度の気温の中では、気持ち良く日光浴を続けてられるのだ。
近年、ヨーロッパでは、日光浴を戒める動きがある。紫外線が皮膚癌を誘発するという。しかし、少なくとも僕の知る範囲で、皮膚癌になったという人はいない。そんな警告より、大部分が日本では北海道よりも北に住んでいるヨーロッパ人の「太陽信仰」は強い。太陽の中にいることは、身体の「虫干し」をしているようで、本当に気持ちが良い。僕も完全に「太陽信仰」の信者になってしまったようだ。