ミニ万里の長城
稜線に沿って立てられたサティヴァの城。
今日、三日目は車で少し遠出をしてみることにした。妻と僕の選んだ目的地は、カルベに北にあるサティヴァ(XÃTIVA)と言いう町。丘の上にある古城を見学する予定だ。十一時ごろにカルベの街を出て、目的地に向かう。カルベの街からは百キロ弱というところだが、途中山道に入るので、二時間程度かかると予想していた。
先ず高速道路に入り、ヴァレンシア方面へ向かう。道路の両側は岩山の連続。上が平らな台形の山が多い。木は下のほうしか生えていない。上の方はほぼ裸、サボテンか短い草がわずかに生えているだけだ。途中でヴァレンシア県に入る。高速を降り、山へ向かって車を進める。つづれ折の道が続く。両側にみかん畑が現れる。そう言えばヴァレンシアはオレンジで有名だった。みかん畑の中で車を停める。妻がみかんを一個取った。まだまだ硬そうだ。味見をしたらと言うと、硬くて皮をむくことさえできないと、妻は言った。
山道が終わり、盆地に出て、間もなくサティヴァの街に着く。駐車場を探すうちに旧市街に迷い込んでしまった。車がやっと通れるくらいの幅の、石畳の道の連続。おまけにわずかな空間には、所狭ましと車が停めてある。車を擦らないように、ぶつけないように、大汗をかいて運転。工事中の看板を蹴っ飛ばした。レンタカーを借りるとき、豪勢にベンツにしようぜと言って、妻に反対されてやめたのだが、ベンツでなくて本当に良かった。
大きな教会の前で、妻が何とか英語の通じる若者を見つけて、観光案内所の場所と丘の上にある城に行く道を聞く。観光案内所に行ってみるが閉まっている。十四時まででお終い。十五分遅かった。スペインには「シエスタ」(昼寝)の習慣がある。その間は店も閉じている。それを忘れて失敗してしまう。
丘の上に通っている「トレイン」(おそらくお猿の電車のようなおつなぎのバス)は四時半までない。それで、車で城へ行くことにする。「カステル」と書いた標識を追い、旧市街を抜け、つづれ折の道を一キロほど走って、ようやく城に到着。
城は女性のおっぱいのような形の、二つの頂のある丘に立っている。その乳首の部分に物見櫓が立っている。城の形はちょうど女性のブラジャーのよう。二つの頂上を結ぶように、稜線に沿って城壁が築かれており、それが何となく「万里の長城」を思い出させる。
丘の頂の物見櫓から下界を見下ろす。抜けるような青空の下、どこの旗か分からないが、朱色の旗がはためいている。そのコントラストが何とも言えない。上からの眺望は素晴らしい。しかし、よく見ると不思議な地形だ。概して平地であるのに、所々、突如として丘がそびえている。侵食の後、硬い地層だけが残ったのだろうか。所々にそびえる丘の上には砦が築かれていた。
英語の案内書を読んだ妻によると、丘の中腹に古い「チャーチ」(教会)があるという。
「どうせ、ちゃちなチャーチじゃないの。」
と思わず言ってしまい、また妻から睨まれる。ともかく、そこで車を停める。教会はさて置き、そこから見るサティヴァの旧市街の眺望は素晴らしかった。