お抱え運転手、お抱え料理人付の旅

 

「いただきまーす。」なぜかキッコーマン醤油も。

 

四時半にサティヴァを出て、カルベへ向かう。途中、テーブルの形をした岩山とオレンジの木をバックに写真を撮る。カメラのファインダーを覗いたとき、かつて見た「岩木山をバックにしたリンゴの木」という青森の写真を思い出した。

カルベに近づくと、例のカルベ名物、高さ三百数十メートルの岩が見えてくる。これが目標物になって、運転しているものにとっては至極便利だ。

その日の夕食は、レストランへ行かず、自分たちで作ることにしていた。それでスーパーで買い物をする。牡蠣、ムール貝、イカ、エビなど、海辺ならではの材料を買う。三百グラムを、「トレ・シエントス・グラム」と言えるほど、スペイン語の勘も戻ってきた。ニンニク、オリーブ油、トマト、ブーケガルニ等の調味素材も忘れずに買う。

マーケットには、変わっていて、美味しそうで、試してみたいものがいっぱいある。しかし、買出し旅行に来たわけじゃないので、重い食料品をロンドンに持って帰るわけにもいかない。出来れば、プロシュート、豚の足のハムを一本、お土産に持って帰りたいところ。百二十ユーロ、そんなに高くない。結局はあきらめる。

買い物を済ませ、アパートに戻り、ビールとワインを飲みながら夕食を作る。これをやると、料理の最中に酔っ払ってしまい、料理が出来あがった頃には、料理人も出来上がっているということになってしまう。

料理は僕が担当。地中海風の味にするために、ニンニクとオリーブ油、完熟トマトをふんだんに使う。妻には、牡蠣の貝を開けるのを担当してもらう。これがなかなか難しく、手などを切って怪我をしやすい。軍手の必要な作業だ。ねじ回しなどでこじ開けるのだが、最初に、貝の正しい割れ目を見つけるのがなかなか難しい。妻は苦労している。

一時間後、生牡蠣とレモン、ムール貝の白ワイン蒸し、エビとイカのスパゲティーが完成。料理中に、僕は妻と一緒に、ロゼのワインを半分ほど空け、良い心持ちだ。

「いただきまーす。」

昨日のレストランの料理より絶対に美味いと、妻もポヨ子が言ってくれた。

太陽の下に長くいたのと、ワインを飲みすぎたので、食事が終わったとたん、ソファに横になる。そして、そのままブラックアウト状態で眠ってしまった。

目を覚ますともう朝の八時。外は曇っている。昨夜ワインを飲みすぎたので、二日酔い気味、頭が少し重い。

ムール貝のワイン蒸しのスープで、スパゲティーソースを薄め、冷や飯を入れて煮て、「海鮮おじや」あるいは「シーフードのリゾット」を作る。美味い。一昨日、レストランで食べたパエリアよりははるかに。レストランで、自分で作るもの以上の味を食べることができないのは、幸いなのか不幸なのか。いずれにせよ、おじやを食べながら、妻に、

「あんたは『お抱え料理人』と『お抱え運転手』を連れて旅をしているようなもんだね。」

と言ってやった。

 

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