体駐車場の謎

立派な塔を持つ、ブリストル大学、ウィルス記念館。

「あちゃ〜、しまった。」

僕は高速道路で呟いた。三月十八日の朝八時半。スミレと義母を乗せて、自宅を出た。ブリストルまでは百二十マイル、二百キロ弱の距離だ。殆どが高速道路なので二時間半もあれば着くだろうと踏んでの出発。風は少し冷たいが、天気は上々、ドライブ日和だ。

家の前の満開の桜に送られて走り出す。まずは、「M一」高速一号線に乗って北へ向かう。そこまでは良かった。しかしロンドン環状高速道路「M二十五」に入ったとたん渋滞、車は歩いている速度以上で進まなくなってしまった。一時間経って、まだヒースロー空港までも辿り着けない。時刻は既に九時半を過ぎている。「オープンデイ」の集合時間は十一時半だ。

何とか渋滞で悪名高き「M二十五」から離れ、西へ向かう「M四」に乗ってからやっと車が流れ出した。疲れるので普段余りスピードは出さない僕だが、十一時半までに着くために、百五十キロくらいで飛ばし、頻繁に車線を変更する。ウィンザー城を尻目に殺して、レディング、オックスフォード、スウィンドン、バースを通過。

スウィンドンにはホンダ自動車の工場があり、僕の会社の支店もある。スウィンドン支店の取引先はホンダか、ホンダに部品を納めるメーカー。つまり商売の百パーセントが「ホンダさん」に依存している。ところが不況の影響で、ホンダの工場は現在四ヶ月に渡り操業停止中。先月、社内研修があったとき、普段参加者の少ないスウィンドン支店から、大量の同僚たちがやって来た。仕事が少ないので、この際、研修に送り込もうと言う訳。

「ホント、暇で暇でしゃあないわい。」

とスウィンドンの同僚は自嘲気味に言っていた。

十一時半にブリストルの町に入る。何となく、こじんまりした田舎町を想像していたのに、大きな都会なので驚く。それもそのはず、人口四十万余(これは義母の住む金沢と同じ)、英国では八番目に大きな町だったのだ。とにかく、急いで大学に辿り着かなくてはならない。でも、生まれて初めて来る場所だから、勝手が分からない。

「パパ、地図を渡そうか。」

とスミレは言う。

「あのね、スミレちゃん、地図ってのはね、自分がどこにいるか分かって初めて役に立つもんなのよ。今、僕たちはどこにいるのかさえ分からない。」

 何とか「ブリストル大学」の標識を発見。それを追っていくと、右手に立派な塔が見えてきた。

「パパここよ。建物に、集合場所の『ウィルス記念館』って書いてあったわ。」

スミレが言う。僕は、近くの立体駐車場に車を停めた。一階から駐車場に入り、四階に停めたたつもりなのだが、あれあれ、四階にも出入り口があるぞ。どうなってるの。その秘密を、僕たちは後ほど知ることになる。

内部は何か異次元空間のよう。

 

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