オファーが来た

満開の水仙と桜に送られてロンドンを出発。

 

三月に入ったある日、末娘のスミレ(またの名をポヨ子)が言った。

「ブリストル大学からオファーが来たんだけど。」

「そりゃ良かった。グッドニュースだ。」

まずここで、大学からの「オファー」についての説明が必要だろう。英国では大学に願書を出した後、大学から「うちへ来てもいいですよ」という返事が来る。これが「オファー」。ただ「来てもいい」という点に付随して「試験の成績が何点以上だったら」という条件がついてくる。この試験は「Aレベル」と呼ばれ、日本のセンター試験にあたる、英国での大学入学資格のための共通テストだ。つまり、スミレは試験で、ブリストル大学の指定してきた点数を取れば、晴れて入学が許可されるというわけだ。試験より先に合格通知が来るなんて、何だか変なシステムだ。 

ケンブリッジ大学やオックスフォード大学では、この「オファー」を貰うことさえ難しいらしい。つまり多くの入学希望者が「門前払い」を受けてしまうのだ。娘はこの二ヶ月ほどずっと、どこからオファーが来るかしら、誰々ちゃんはどこからオファーも貰ったとか、断られたとか、そんな話をしている。ともかく、名門(?)ブリストル大学は、娘に興味を示してくれたわけで、有り難いことだ。

「それで、来週の水曜日、オープンデイがあるんだけど。パパ、一緒に来てくんない。」

娘が続けて言う。ここでまた「オープンデイ」についての説明が必要になってくる。大学は「オファー」を出した志願者を学部ごとに集め、説明会を開く。これが「オープンデイ」。学生以外の人にも大学を「オープン」にする日ということなのだろう。志願者はその日、教授や先輩の学生たちの話を聞いたり、校舎や寮を見学することができる。

「オープンデイ」の日、三月十八日は仕事が休みだ。それで、スミレと、ちょうどロンドン滞在中の義母も連れて、車でブリストルへ行くことに決めた。ブリストルは、ロンドンのずっと西、イングランドとウェールズとの国境に近い。(国境と言うのも変だが)僕はまだブリストルへ行ったことがなかった。たまに知らない町で出かけるのも面白かろう。

水曜日が休みになったのには訳がある。深まる不況の中、僕の働く会社でも経費削減が急務となってきた。それで、残業手当の不払いが通達された。残業は極力しないようにすること、そして、仮に残業しても手当ては払えないので、代休を取るようにとのお達しが出た。前月の二月にかなりの残業をしてしまっていた僕は、三月になり、三日間の代休を取らざるを得なくなった。僕は、何も考えないで、水曜日を休みにした。その結果、二日間働いてはお休みというパターンになったのだ。その休みの水曜日に、スミレの「オープンデイ」が入るというのも、なかなかグッドタイミングだ。

また、三月中旬に義母が日本から来ることになっていたので、休みが多いことは都合が良い。義母の到着を待つように、寒かった今年の冬も終り、英国はぐっと春めいてきた。クロッカス、水仙、桜などの花も一斉に咲き出した。

英国の桜の花びらには、日本の桜のように切れ込みがないことを義母が発見。

 

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