かぶりつきの魅力

外から見たグローブ座。

 

テムズ河の南側を歩く。鉄道橋をくぐると、帆船「ゴールデン・ハインド」のレプリカがある。土曜日の午後ということで、テムズ河畔の遊歩道は人通りが多い。

グローブ座が見えた。正しくは「シェークスピア・グローブ」、一九九七年に、シェークスピア時代、つまり十六世紀後半の劇場を模して作られたものである。外から見ると木造の円筒形の建物。中に入ると、中庭があり、その一角に舞台が設えてある。中庭には舞台の上だけ屋根がついている。外から見ると円形に見えるが、厳密には正二十角形であるという。

切符を見せて、劇場の中に入る。僕は昨年、ドイツから来たお姉ちゃんにロンドン名所を案内したとき、この劇場の中に入ったことがある。その時はまだ春先、復活祭の頃で、芝居はやっていなかったが。だから大体の勝手というか、中の様子は分かっている。

グローブ座には、大きく分けて、二種類の観客席がある。「貴族の席」バルコニーと、「庶民の席」土間である。

バルコニーの長所と短所:円形の建物の中。三層になっている。座り心地はよくないが、一応椅子があり座れる。屋根あるので、雨が降っても濡れない。舞台全体が見渡せる。しかし、舞台まで距離は遠い。値段が高い。

土間、立見席の長所と短所:中庭。座れない、立ったまま。雨が降ったら濡れる。しかし、舞台までの距離は圧倒的に近い。至近距離から芝居が見られる。安い。

 しかし、ひとつの劇の開演中、二時間から三時間、ずっと立ちっぱなしというのも疲れる話である。もし、個人的に切符を買うならば、多少高くても、僕は座ることのできるバルコニーの席を求めるであろう。しかし、まあ、今日はスミレの切符なので(僕のクレジットカードで払ってはいるものの)、辛抱して、立って見ているしかない。立見席の切符は一枚五ポンド、七百円強。バルコニーの一番良い席は四十ポンド、六千円近くするという。

 同じ立見席でも、真ん中にズボッと立っているのはいかにも疲れそう。どこか寄りかかる場所があるだけでも助かる。それがあるのは最前列と最後列。最前列は、「かぶりつき」で前方の舞台に寄りかかることができる。最後列は、後方のフェンスに寄りかかれる。僕は舞台の右側の最後列で、フェンスに寄りかかって、芝居を見ることにした。

 天草に住む友人のトケシ教授は、海洋生物学の先生ながら、文学にも造詣が深く、シェークスピア戯曲のファン。ロンドンに来るとよくここへ来られる。同教授は「かぶりつき」派とのこと。立見席の最前列で、舞台に肘を突き、上目使いで俳優さんたちを眺めておられるらしい。関西のストリップ劇場では、お馴染みの光景(であると、他人から聞いたことにしておこう。)

 最初から立っていると疲れるので、最初はフェンスを背に腰を下ろす。周囲のバルコニー席を見上げる。客席は全て木で作られていて、屋根は茅葺きである。早く来て場所取りをする必要のないバルコニー席の観客が、三々五々席に着いていた。

 

開演前、土間からバルコニーを見上げる。

 

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