町から町へスケート
アムステルダム中央駅。
日曜日の夜、マッサージを終えてから、僕はひとりで車を運転して、近くの日本レストランへと向かった。さすがにこのあたりで、日本の物が食べたくなってきた。
ここ一週間、朝はホテルのビュフェ形式(昔、日本ではバイキング式と言ったけど、今でも言うのかな)の朝食。昼は、オランダ人の同僚、バスの手配してくれるサンドイッチに牛乳五百ミリリットル、その間にコーヒーを数杯、夜はビールを飲みながら、ホテルのバーでサラダか軽食、そんなパターンを繰り返していた。
ホテルの食堂は日本で言う一階(こちらでは地上階)にある。朝食の時間になると、一階にはベーコンを焼く良い匂いが漂っている。僕の部屋は五階。ボタンを押し、エレベーターが到着し、ドアが開くと、そのベーコンの香りがフワリと鼻をくすぐる。
「エレベーターは人だけではなく、匂いも運んでいるんだな。」
そんなことを考える。
昼間のサンドイッチ、余りパンは食べない僕だが、個人的にはコロッケパン、「クロケッテ・メット・ブローチェ」なら好きなのだ。昼食発注係のバスに、
「たまにはクロケッテ・メット・ブローチェを混ぜてよ。」
とリクエストするのだが、いまだに、それは実現していない。仕方なく、チーズサンドかハムサンドを毎日食っている。
その日の夜は、アムステルフェーンの日本料理店で「イクラ丼」を食べる。後ろの席で、同じく独りで、「トンカツ定食」を食べている日本人男性がいる。おそらく彼も、僕と同じように単身赴任か、長期出張なのだろう。
レストランを出て少し驚く。頬に当たる空気が、穏やかに、優しく感じられるのだ。気温が上がってきたのが分かる。おそらく気温はプラスに転じている。
その日の夜は、久しぶりに七時間、ノンストップで眠った。やはり頭にも、身体にも休養は必要なのだ。
月曜日、朝のミーティングでチームの面々が顔を揃えたとき、昨日は何をしていたかという話題になった。僕は美術館に行ったと皆に告げる。暑い国からきて、寒さに弱いジェイはずっと部屋に篭ってテレビを見ていたという。オランダ人の同僚、フェリーは、友人たちと町から町へ運河を巡るスケートをしていたと言う。立ち寄る町々で、飲み屋に寄ってはビールを飲みながら。
「最後はこんなになって、真直ぐ進めなくなったよ。」
フェリーは両手を横に水平に出して、フラフラとよろける真似をした。スケートでの散歩、町巡り、昨日は天気が良かったので最高だろうな。是非ともやってみたい気がする。
ベルトコンベアはその後も順調に動き、稼働率もぐっと上がってきている。二ヶ月の間一緒に働いてきたバーティは、今日が最後。彼と一緒に、ベルトコンベアの前で記念撮影をする。
電車の中での夜明け。