最後の夜

国立美術館の前には、大きなレンブラントの垂れ幕が下がっていた。

 

 火曜日、ベルトコンベアは順調に稼動を続けている。僕の担当のインターフェースは全く問題がないので、ジェイの仕事を手伝い始める。

さすがに、一週間いると、日常作業にも、オランダ語にも慣れてくる。倉庫マネージャーのフェリーが、冗談半分に、

「倉庫の監督係を雇いたいで、今探してるんだけど。モトならすぐにでも勤まるよ。うちへ来ないかい。」

と言う。

「いいけど、僕は高いよ。」

「そうか君は高給取りだった。やめとこう。」

そんな会話が出る。リーダーのバスが、作業員に、

「テンポ、テンポ。(オランダ語で『急いで急いで』)」

と、催促している。これはドイツ語と一緒だから分かる。バスが少し手間取っているとき、

「テンポ、テンポ。」

と言ってやった。バスは苦笑い。

 気温がプラスに転じてきた。運河の氷も解け出して、上に乗ると怖そうな状態になっている。朝、ロビーでCCNのニュースを見ながら待っている。バラク・オバマがよく登場する。新大統領の就任式がもうすぐだ。

 水曜日、稼働率はほぼ百パーセント。しかし毎日十二時間の労働時間は変わらない。連日の長時間労働で、さすがに三人とも疲れが溜まってきた。ホテルに戻ると、疲れ果てている。少し泳いで、サウナに入ると、血行が良くなるからか、やや気分と身体が楽になる。その後ビールを飲むともう眠る時間だ。疲れが溜まってくると、かえって眠りが浅くなり、夜中に何度も目が覚める。

 木曜日、今日がアンディと僕にとっては、最後の夜だ。朝車の中でアンディが、

「プロジェクトも上手くいったことだし、今日は早めに終わって、レストランへ行き『お祝い』をしよう。」

と提案をした。ジェイがインド料理を食べたがっているのは分かっている。しかし、アンディはわざと、

「マクドナルドのパーティールームを借りて、パーティーハットをかぶって、そこでハンバーグとミルクセーキでも食うか。ジェイ、君はカレーが好きだったね。チキンナゲットのソースはカレー味にしてあげるから。」

などと言っている。ジェイは、

「いやだよ、そんなの。本当のカレーを食いにいこうぜ。」

と口を尖らせている。果たして、僕たちはその日は仕事を六時に終え、ホテルに戻り、サウナに入った後、七時半にロビーに再集合。僕の運転でインド料理店に向かった。

 

アムステルダムのトラム。

 

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