ファン・ゴッホとマッサージ
ファン・ゴッホ美術館。
リクスムゼウム、つまり国立美術館に一時間ほどいてから、すぐ近くのファン・ゴッホ美術館に入る。リクスムゼウムは朝九時過ぎとあって、殆ど人がいなかったが、午前十時に開館したファン・ゴッホ美術館の入り口には列が出来ていた。
この美術館には、名前の通り、フィンセント・ファン・ゴッホの作品が、年代順に展示されている。驚いたことに、彼は三十七歳で自殺した彼の「まともな」作品は、死ぬ前のわずか三年間に書かれたものなのだ。初期の作品は、はっきり言って「下手」だ。「へたうま」とも言えない。もちろん晩年の作品は傑作揃いだが。彼がもっと長期間に渡り、コンスタントに作品を発表していたと思っていた僕にとって、またひとつ勉強になった。
ファン・ゴッホ美術館を出てから、トラムに二駅、三駅ずつ乗りながら、運河、花市場、王宮とダム広場を見て回る。しかし、昼過ぎに「怠惰な旅行者」のエネルギーは尽きてしまった。ちょうど中央駅の近くまで戻ってきていたので、そこからインターシティーに乗って、スキポール空港に戻り、ちょうど停まっていたホテルのシャトルバスに飛び乗って、午後二時にはホテルに帰ってきた。今日は唯一の休日なのだ。明日からまた忙しい毎日が待っている。身体と頭を休めさせなければ、と自分に言い訳をする。
ホテルの部屋で寝転がって、テレビをつける。ドイツの放送局ではスキーのジャンプやスピードスケートの中継をやっている。ジャンプの方は、大きなシャンツェで、二百メートルを超えるジャンプをしている人間がいる。選手は七秒近くも空中にいることになる。素人には絶対真似のできないスポーツ。
僕はウインタースポーツの中継を見るのも好き。スキーのジャンプも見ていてハラハラするし、バイアスロンなんていうのも見ていて、意外な展開があったりして、結構面白い。しかし、英国ではウインタースポーツの中継が全然ないのだ。これは寂しい。その日も、英国のチャンネルをつけると、延々とスヌーカー(玉突き)と競馬の中継をやっている。
疲れを取って、明日からに備えようと、午後五時にマッサージを頼む。四時過ぎにプールに行き、少し泳いで、サウナに入り、それからマッサージルームに行く。アムステルダムでマッサージと言うと、若いお姉さんにある特定の部分だけをマッサージしてもらうのでは、と誤解があるかも知れない。しかし、その日は、三十代後半の女性による、ごくごく健全なマッサージだ。
「どこか凝っているところありますか。」
と聞かれたので、
「コンピュータの画面を一日見ているので、目と頸と肩が疲れるんですよね。」
と言うと、そこを重点にやってくれた。マッサージ室には、「癒し系」のインド風の音楽が静かに流れている。僕がピアノを習っているヴァレンティンも、レッスンの前によく肩や頸のマッサージをしてくれる。彼は世界を駆け回るコンサートピアニストだが、何故かマッサージもプロ並に上手いのだ。今日の女性のマッサージ師と、ヴァレンティンとどっちが上手いかな、微妙なところだ。
アムステルダムは自転車の街でもある。