ホテルの施設を最大限に利用する人たち
一緒にお仕事をした人たち、中央がジェイ君。
先にも書いたが、十二月の中旬、ベルトコンベアとコンピュータの接続と、コンベアのテストランだけは済ませていた。しかし、本番環境と比べると、テストは質、量ともにとても十分とは言えない。本番稼動の予定は今週の土曜日。あと四日間しかない。それまでに、どれだけ問題を潰し、機械やプログラムをチューンできるか、予断を許さない状況だ。ともかく、僕たち多国籍チームは、機械を動かし、問題点を見つけ、日に何度かのミーティングでそれを分析、改善し、また機械を動かすということを、繰り返すことにした。
作業は全て英語で進められていく。しかしまあ、どの会社の人間も、オランダ人は皆さん英語が達者である。オランダでの仕事は言葉が通じるので本当に助かる。エンジニアやマネージャーだけではなく、倉庫の作業員のお兄ちゃんたちも皆流暢な英語を話す。彼らはトルコ人、スリナム人等、殆どが外国人なのに。
テストの最中には、テストに使う荷物を運んでもらわなければならないので、作業員のお兄ちゃんたちに指示をしなくてはいけない。そのとき英語で直接指示できるのは本当に助かる。これがフランスやスペインだと、一般の作業員はまず英語を解さないので、全てが通訳を介してになる。まどろっこしい。時間もかかるし、ストレスも溜まる。(ドイツでも英語は通じにくいのだが、ドイツ語を話す僕だけは別に困ることはない。)
どうしてオランダ人は英語が上手なのか。オランダ語と英語が互いにそれほど近いわけではない。映画は英語で放映しオランダ語字幕をつけていることを理由に挙げる人もいるが、それは日本でも同じこと。しかし、日本人は殆ど英語を話さない。オランダは小さな国だ。ビジネスも国内だけでは成り立たず、どうしても外国との仕事が多い。つまりどこも国際企業。おそらく、英語を話せることが職を得る上で必須なのだろうと、僕は想像した。
初日の仕事が終わって、三人でホテルに戻る。「車の運転はモト」というのが、アンディとジェイにとって、「暗黙の了解」であるようだ。と言うか、ふたりが運転しようとしないので、僕がやらざるを得ないのだが。屋外の駐車上に停めた車の窓ガラスは、まだ午後六時過ぎというのに凍り付いている。運転をしないアンディが、備え付けの「ヘラ」でフロントガラスに付いた氷をガリガリと取る役目を買ってでた。
フロントガラスはそれでもきれいにならない。よく見ると内側も凍り付いている。もう「ヘラ」はないのでクレジットカードで氷をこそげ取る。それを見てジェイが「クレジットクランチ(信用不安)」引っ掛けた冗談を言った。何が面白いのかは不明だ。
僕たちの泊まるホテル「ドリント・アムステルダム・エアポート」は四つ星。スキポール空港の近くの近代的できれいなホテル。ジムとプール、サウナがある。三人で初日から早速それらを利用する。寒すぎてとても外に出られないので、ジムかプールへ行くしかないのだ。
「俺たちって、本当に健康なチームだよな。」
ジムでアンディがちょっと自嘲気味に言った。翌日、O次長は、僕たちを「ホテルの施設を最大限に使う人たち」と評した。
運河沿いの建物。