バイバーイ
マルメーの街。近代的な部分と、伝統的な部分が混在している印象。
コペンハーゲンの駅で、「ダヴィンチ・コード」の英語版が買え、これで「読むものがない」状態から解放され、気分的に何となく落ち着く。僕は、どこにいても、手元に本がないと落ち着かない「本中毒」だ。プラス、アルコール中毒、ジョギング中毒。
マルメーに戻り、空港バスが出る六時二十分までの間、駅前のサヴォイホテルのカフェでビールを飲みながら、買ってきた本を読んで過ごした。カフェには通りに面していた。日曜日の夕方ということで、ガラスの向こう側の人通りは少なかった。
「霜の降りる前に」で、ヴァランダーの娘リンダの友人アンナが、マルメーのホテルのカフェに座っているとき、ガラス越しにひとりの男が彼女を見ているのに気付く。アンナは本能的に、それが二十四年前に家を出た自分の父親だと知る。男は歩き去るのだが、アンナは父親とまた会いたいがために、それから数日、カフェの同じ席に座り、父親の出現を待つのだ。多分、僕が今居るこの場所で待っていた(ことになっている)のだろう。
六時になり、空港バスの乗り場へ向かう。既に数人、スーツケースを持った旅行者が待っていた。今日は大丈夫そうと、何となくほっとする。突然、車のクラクションがなり、
「おーい、モト。」
と呼ぶ声がする。マルメーに知り合いはいないはずだが。見ると、向かいのタクシー乗り場で、昨夜の運転手ラリが、自分のタクシーから半分身を乗り出して手を振っている。僕がそちらへ行こうとすると、隣でバスを待っていたおばさんが、
「あんた、もうすぐバスが来るから、タクシーに乗ることないよ。」
と英語で忠告してくれる。
「違うの。あれ、僕の友達。」
おばさんにそう言って、ラリの車の横へ行った。彼と握手をする。彼は、タクシーの中は暖かいから中で待てば、と言ってくれる。とことん親切な奴だ。商売の邪魔をしてもいけないので、お断りして、サヨナラを言ってバス停に戻る。間もなく、彼のタクシーに客がついて、彼は去って行った。僕は、彼の車に向かって、「バイバーイ、ラリ」と言って手を振った。彼も窓を開けて、手を振りながら何か言っていた。いずれにせよ、誰かにサヨナラを言って、街を立ち去るのは、何も言わないで立ち去るより、気分が良いもんだ。
バスはスツルップ空港に到着、今日は、僕の乗る便がちゃんとモニターに出ていた。一時間ほど待って、チェックインを済ませ、ターミナルで食事をする。寒いところから、暖かい建物の中に入ると、眠くてたまらない。十時半に飛行機に乗る。機内で「ダヴィンチ・コード」を三ページも読み進まないうちに、僕は眠ってしまい、気が付いたら、もうスタンステッドに降りる直前だった。スタンステッドに着いたのは十一時過ぎ。入国審査の列に四十分ほど並ばされ、空港の外に出たときは真夜中を過ぎていた。車の中の温度計は三度だったが、寒い国から来た僕には、シャツ一枚でいられるくらい暖かく感じた。
イスタードには立派な劇場もある。 スウェーデン・デンマーク間に架かる全長16キロのオレスンド橋。
(了、お読みいただき有難うございました。)