帆船訪問
帆船ヘレーネと、港の近くのカラフルな家々。
三日目、土曜日。前夜、食事の前後に飲みすぎて、少し二日酔いだった。八時半にホテルの食堂へ行き朝食を取る。地元の新聞が置いてあったので、開けてみる。ドイツ語から想像のつく言葉もあるし、全然想像のつかない言葉もある。宿の親父さんが僕を見て、
「あんた、スウェーデン語読めるのかい。」
と不思議そうな顔で聞く。スウェーデン語を読める日本人なんてきっと「珍種」なんだ。
「今、勉強しているところ。でも、ドイツ語が分かるので、少しは分かるよ。」
と答えると、そうかと納得していた。おそらく彼も、ドイツ語は少し分かるのだろう。
九時過ぎに車を停めていた港の駐車場へ行く。雨は降っていないが、曇が厚くて低い。最初の日から気になっていた古風な帆船に人の姿が見えたので行ってみる。全長約二十メートル、よく分からないか百トンくらいの船だと思う。ヴァイキングが乗っていたようなやつだ。僕が船の中を覗き込んでいると、自転車に乗った中年の男性がやって来た。
「これ、漁船ですか。」
と英語で彼に聞いてみる。彼は、これは船の好きな人たちが、レジャーの為に共同所有している船だと言った。彼もそのグループの一人とのこと。それから、僕がどこから何をしにイスタードに来たのかとか、そんな話になった。彼が、突然言った。
「船の中を案内しましょうか。」
「わー、嬉しい。ぜひお願いします。」
と言うことで、僕たちは歩み板を渡って船に乗り、キャビンへ続く階段を降りて行った。船の幅は四メートルほど、キャビンの両側はずらりと二段ベッドになっている。二十人がここで寝られると、彼は言った。その後、彼は台所と機関室を案内してくれた。機関室には、ディーゼルエンジンと電気モーターの二つがスクリューに繋がっていた。
この船でどこまで行くことができるのか、尋ねてみた。大概はバルト海沿岸だけれど、昨年はキール海峡を通って北海に出て、ドイツのブレーマーハーフェンまで行ったという。夏のあいだは観光客を乗せて、短いクルーズもするという。
「今度、君が夏に来たら、乗せてあげるからね。」
と彼は言った。
案内してくれた男性にお礼を言い、「ヘレーネ」という名前のその船の写真を数枚撮った後、僕はまた車に乗った。昨日に引き続き、ヴァランダーと彼の関わった事件にまつわる土地を巡る。最初はイスタードから五キロほど離れたモスビー海岸。第二作「リガの犬たち」の冒頭で、ふたりの死体を乗せたボートがここに漂着する。検視官は、死体の虫歯の治療方法から、彼らが東側の人間だと断定する。虫歯の治し方にも、お国ぶりがあるそうな。
しかし、バルト海は色々な国に面しているから、先程の帆船のように、海路どこでも行けるのは便利だけど、その分、不法移民や密輸を取り締まるのは、至難の業だろうなと僕は思った。
モスビー海岸、寒さの中、散歩をしている人がいた。