ドイツ人のおばばの小言
ヴェロナの街の橋はどれも趣がある。
二時間ほどかけてヴェロナの街を一周してきた我々は、円形競技場、アレーナのある広場へ戻って来た。ちょっと一服しようよと言うことになり、カフェを物色しているうちに、アイスクリームを食べたくなった。カフェに入り、五人がアイスクリームを注文する。
「僕は、レモン。お姉さん、ウノ・リモーネ・ペル・ファボーレ、ね。」
「僕は、レモン・アンド・ペパーミント。プリーズ。」
僕と息子の注文は即決したが、女性たちの注文が決まらない。
「テラミスある?」
「ありません。」
「その茶色いのは何?」
「ナッツです。」
「どれにしようかな。」
我々の後ろにひとりのおばばが順番を待っていた。そのおばばがドイツ語で呟いた。彼女はドイツ人かオーストリア人がスイス人なのだ。この際ドイツ人と言うことにしておこう。
「永遠に時間のかかる子供たちね。」
彼女は本当に「エーヴィッヒ(永遠)」と言うドイツ語を使った。おばばはもちろん独り言で、誰にも聞こえないと思ってそう言ったのだ。しかし、彼女の前の「いかにも旅行者風の東洋人」は何故かドイツ語を解した。
「子供は選ぶのに時間のかかるものなんです。もう少しご辛抱願えますか。」
僕はドイツ語でおばばにそう言った。その時のおばばの当惑した顔を僕は忘れられない。ドイツ人は基本的に、ドイツ語を話す外国人には大変親近感を持ってくれて、親切だ。そこがイギリス人の英語を話す外国人に対する態度との大きな違いなのだ。おばばは「敵」が突然「味方」突然変わり、動揺したに違いない。
我々は、アイスクリームを片手に外に出た。娘たちが、
「ねえ、パパ、カフェで小母さんに何て言ったの。」
と聞いた。僕は、会話の内容を伝えた。
「小母さん、怒らなかった?」
「ううん。コンフューズ(困惑)しているみたいだった。」
「パパ。やったー。」
と、つまらないところで娘たちに褒められてしまった。
その後、我々はいくつかの店に入り、何も買わずにまた店を出た。そして、再び車に乗って、高速道路を東に向かって走り出した。ヴェロナの街の北方に、雪を頂いた山が見えたが、妻が明日はそこへ行ってみたいと言った。高速道路を走るうちに、辺りはすっかり夜になり、眼鏡のない僕は標識が読めずに困った。幸い少し迷っただけで、我々は無事メストレのホテルに帰り着いた。
ヴェネチアではごみ集めも船でやっていた。