オランダは風車の国
今年、二〇〇四年はオランダの会社との契約になった。それで、毎週のようにオランダへ出張しなければならない。オランダって、ひたすら平らな国。どこへ行っても地平線が見える。
ドイツのランナーの先入見に、オランダのランナーは坂道に弱いってのがある。国中がひたすら平らなもんで、坂道の練習をする機会がないというのだ。昔住んでいたドイツのメンヒェングラードバッハ(長い名だ)はオランダの国境に近かった。それで、レースになると、オランダのランナーも大勢来ていた。だからオランダ人とは何度も走ったことがある。でも、彼らが特に坂道に弱いということはなかったな。しかし、オランダ人のランナーって結構役に立つ。身体がでかいので、向かい風のとき、後にぴったりついて走れば、いい風除けになるのだ。
オランダ人って、どうしてあんなにでかいのかな。これもドイツ人の冗談だが、オランダは牧畜の国。牛を早く太らせようとして、密かに成長ホルモンを与えている。その成長ホルモンを与えられた牛を食うから、人間まででかくなったとか。これは、あくまで冗談なので、信じないように。
また、オランダは、常に強風が吹き荒れる国という印象。出張中、朝起きて少し時間があるとき、ホテルの周りをジョギングしようとする。外に出ると、いつも強風がビュービュー吹き荒れている。軽量の僕なんかは向かい風で全然進まないし、横風では吹き飛ばされそうになる。しかし、こんなに年がら年中、強風が吹き荒れている国であるからこそ、それを有効に使う知恵、つまり風車なんてものが考え出されたんだろうなと思う。
しかし、最近のオランダでは昔ながらの風車を見ることは稀である。たまに風車があっても、中が改造されて、レストランになっていたりする。この前、風車小屋を改造したレストランに行った。中に入って観察すると、建物は、ひとかかえもある太い木材を組み合わせて作られていた。柱や張りが緑色に塗られていたが、それはもう年月を経て、カチカチに硬くなり、木と言うより、石という印象がした。しかも、そこはオランダ料理ではなく、フランス料理の店になっていた。まあ、美味しかったから何でも構わないけど。
風車小屋のレストランで晩飯を食った翌日、僕は同僚の車でロッテルダムへ向かった。もちろん仕事で。その途中で、僕は何百という風車を見ることになる。昔ながらの風車もあったけど、それは十にも満たない。大部分は、風力発電の白い巨大なプロペラだった。その日も風の強い日だった。三枚羽根の、高さが三十メートル、プロペラの一枚の長さが十メートルもあるくらいの風車が立ち並んで、ブンブン回っていた。ブンブンと言っても、別に音がするわけではない。静かに回っていた。その姿からは何か異次元的なものが感じられた。何故だか知らないが、ダリの絵のようなシュールさがあった。
目的地の会社に着いた。工業団地である。そこの従業員が、ここは十年前まで海の底だったと言った。さすがオランダ。窓に目を転じると、やはり風力発電の風車が見えた。