ヨーク鉄道博物館

 

プラットフォーム九と四分の三。マヤは辿り着けたか。

 

今年二月のある日、国立鉄道博物館を訪れるため、僕はロンドンの(「ハリー・ポッター」の小説と映画で一躍有名になった)キングスクロス駅からイングランド北部のヨークへと向かった。ハリー・ポッターの小説によると、ホグワース魔法学校行き「ホグワース特急」は赤い蒸気機関車に引かれて、プラットフォーム「九と四分の三」から出発する。小説が有名になった後、このホームが本当に作られてしまった。(といっても壁だけだが)標識の下には、旅行カバンを運ぶトロリーがレンガにめり込んでいる。つまりそこを突き抜けて行けというわけ。

ロンドンからヨークまでは特急でちょうど二時間。英国ではまだ電化区間が少なく、長距離列車はまだ皆ジーゼルである。前と後ろから二両の強力な機関車で客車を挟み込み、時速百マイル(百六十キロ)で走る。僕の乗ったインタシティーも三百キロ離れたヨークまでちょうど二時間。従って、駅はジーゼルの排気ガスの臭いでムンムンしており、とても爽やかな旅立ちとはいかない。キングスクロスの駅の面白いところは、ホームに駐輪場があることか。これは欧州の鉄道に共通した点であるが、車内検札はあるが、改札口はない。

ヨークは城壁で囲まれた古い町で、ドイツのニュルンベルクを思い出させた。訪れたのが二月の寒い曇天の日であったせいか、特に重々しい印象を感じた。

国立鉄道博物館は、ヨーク駅から歩いて五分のところにあった。大観覧車があり、機関車トーマスの試乗もあり、「鉄道オタク」だけではなく、子供達も楽しめるようになっていた。他の美術館、博物館と同じく、入場料は無料である。美術館などの入場料が無料なのは英国の本当に偉いところ。こんな立派なものを見せてもらって、本当に金を払わなくてよいのでしょうか、「有難や、ナンマンダブ」と手を合わせたくなることも多い。

ヨークの博物館のメインホールの入り口には、新幹線のゼロ型車両と、世界最速の蒸気機関車、青く塗られた「マラード号」が並んでいる。「マラード号」は蒸気でありながら、時速二百キロを記録したという。

全部で五十両近い機関車の展示があったが、その中でも蒸気機関車のコレクションは素晴らしいい。一八三〇年に、スティーブンソンが世界で始めて作り上げた蒸気機関車「ロケット号」の復元機などもある。日本の蒸気機関車がみな真っ黒であるのに対して、こちらは緑や赤や、色とりどりであるのが楽しい。

昨年、京都の梅小路蒸気機関車館を訪れた。日本へは蒸気機関車がかなり成熟した状態で入ってきたせいか、基本的にそれほど違いはないように思えた。ヨークでは、それ以前の発展途上の物が並んでいるので、より長い歴史を辿ることができて楽しい。

しかし、待てよ。「最新技術」として展示されているのが、日本の新幹線と、フランスのTGVをベースにした「ユーロスター」だけとは。蒸気機関車が衰退した後、英国の鉄道自体も衰退し、蒸気機関車意外に、英国の技術を誇れるものはなくなってしまったのであろうか。この辺り、英国の斜陽と停滞を感じてしまう。

 

「マラード号」。蒸気で時速二百キロを記録した。

 

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