いざトラファルガースクエアへ
子供たちも参加。左の子、嬉しい日なんや、泣きなや。(撮影:田中玲子)
九月十五日、月曜日、日本では敬老の日で休みだが、英国はもちろん普通の日。阪神タイガースは甲子園で広島と対戦。デーゲームだった。朝起きて、出勤前に自宅でインターネットのヤフー野球サイトを呼び出すと、伊良部投手の先発で既に試合が始まっており、タイガースは一対〇で負けていた。その日は、ご存知のように、阪神が広島勝って、二位ヤクルトが横浜に破れて初めて優勝が決まるという条件で、今日が「Xデー」になる可能性は低いなと思いながら、車で職場に向かった。
職場に着いて、また野球サイトを呼び出す。運転している間に、片岡選手の同点ホームランが飛び出していた。回は既に八回。後攻。しかも、横浜対ヤクルト戦も既に始まっており、横浜がリードしていた。「これはいけるかも知れない」と期待が膨らむ。その後も、仕事をしながら、十分に一度くらい、プログラミング画面をインターネットに切り替え、僕は経過を追った。
こちらの午前十時前、赤星選手のサヨナラヒットで、タイガースが勝ったことを知る。横浜のリードは広がっている。インターネットには星野監督が赤星選手を抱きしめている写真が映し出されている。甲子園では、大観衆が帰らないで待っているらしい。
門田さんにメールを打つ。僕としては、今日決まって欲しいという気持ちを伝える。門田さんは、今日は、ヤクルトに勝ってもらって、明日の試合の最後の一球で決まるほうが良いと返事をくれる。確かにそうだが、今日だって、甲子園で大観衆の前で胴上げになるのだからいいんじゃないの。贅沢を言ったらきりがないよ。そう思う。
昼前、インターネットはほぼリアルタイムに横浜の勝利を伝える。
「やったー」
同じ職場で阪神ファンの戸畑さんと握手をする。
インターネットには、星野監督の胴上げと、喜びに湧く甲子園球場の様子が映し出される。誰かが持っていたプラカード、そこには「生きててよかった」と書いてあった。本当に共感できる言葉だと思った。
トラファルガースクエアに集まるのは、午後七時。僕は、特別に午後四時に職場を出て、一旦自宅に向かう。自宅で少し腹ごしらと着替えをした後、六時前、家を出る。大きなスポーツバッグの中には、末娘が手伝ってくれた「祝優勝阪神タイガース」の横断幕、門田さんから買ったハッピ、ラジカセ、「六甲おろし」の歌詞カード、自分あるいは他人がダイブをしたときのための着替えとバスタオルが入っていた。
近くの駅から、電車に乗り、キングスクロス駅へ。そこから、地下鉄に乗り換える。駅の通路を歩いていると、
「いよいよ今日なんだ」
という感慨が湧いてきた。レスタースクエアで地下鉄を降り、一体、何人が集まってくれているだろうかと、期待しながら、僕はトラファルガースクエアへ急ぎ足で向かった。