スウェーデンでは何故皆英語が上手いのか
僕たちのバスは、全く人気のない景色の中を走っていく。牧草地、湖、森が現れては消えていく。すれ違う車の他に人間が見えない。家も見えない。馬は所々に見えたが。
その日のスウェーデンは青い空に白い雲がポツポツと浮かぶが天気。飛行機から見ると、その雲の影が地上や水面に映って、斑点のあるホルスタイン牛の毛皮を見ているようだ。気温は十五度前後。思ったより暖かい。地平線に眼をやると、雲が地平線まで累々と積み重なっているのが見える。余りにも平らだと、空が低く見えるのが不思議だ。
「空が低くて、クロストロフォビア(閉所恐怖症)になりそう。」
とミドリが言うのも何だかうなずける。こんなだだっ広いところで、閉塞感を感じてしまうなんて、人間の心理とは不思議なものだ。
娘にはアンナと言う名の、スウェーデン人の友達がいる。アンナからスウェーデンの言葉、習慣、食べ物について少し予備知識を得ているらしい。スウェーデンではラクリスというお菓子と、アルコール八十度のウォッカ(!)を買うのだと言っている。ミドリはスウェーデン語も、他人の悪口を言うときに使う言葉ばかりだが、幾つか知っている。
その友達のアンナは、完璧な英語と完璧なスウェーデン語を話すらしい。前回スコーネ地方に行った時にも思ったが、スウェーデンでは誰もが訛りのない流暢な英語を話す。バスの中で、娘と、「どうしてスウェーデン人は英語があれほど上手なのか」という話をした。娘は、学校の英語教育が優れているからだと言う。確かにそれもあるだろう。
「スウェーデン語は英語に良く似ていることがひとつ、それとハリウッド映画をテレビでスウェーデン語字幕スーパー付だけど英語で放映しているのも理由だと思う。知らない間に英語の発音が耳についているんだ、きっと。」
と僕は娘に日本語で言った。スウェーデン語の単語はドイツ語に似ていて、文法は英語に似ているのだ。
「そうは思わない。日本でも映画は英語と日本語字幕でやってるわ。でも、日本人は字幕ばっかり見て、英語なんてロクに聞いてないじゃない。」
と娘が英語で反論した。なるほど。確かに彼女に言うことも一理ある。
バスは高速道路に入り、湖に架かる幾つもの橋を渡って、ストックホルムに向かう。だんだんと周囲に家並が増えてくる。バスは正午前に中央駅の隣のバスターミナルに着いた。
中央駅で金をクローネに換える。(スウェーデンと隣国のデンマークはユーロに加入していないのだ)その後、駅から歩いて十分くらいのホテルに到着。ホテルは街の中心。露店が出ているマーケット広場に面している。一階から三階まで店で、四階から上がホテルになっていた。
ホテルに荷物を置き、少し休憩してから、街に出る。ホテルで自転車を貸してくれるらしいが、最初は自分の足で歩いた道が覚えられると思い、ドロトニングスガタンの商店街を旧市街に向かって歩き出す。なかなか清潔で洒落た街並だ。ミドリは通りの両側の店を眺め、「何か」を一所懸命に捜している。