今何故スウェーデンなのか
二〇〇五年六月二十八日、朝四時半。僕と妻のマユミ、娘のミドリは、眠い目をこすりながら、車でロンドン北方のルートン空港へと向かった。六時半のスウェーデン、ヴェステロス行きの飛行機に乗るためだ。最終目的地はストックホルム。
僕がスウェーデンに行くのは今年二回目。前回は厳冬の季節、二月の初旬にスウェーデン南部のスコーネ地方を訪れている。
何故スウェーデンに足を向けるのか。それは、僕が最近、もっぱらスウェーデンの作家の本を読んでいるからだ。昨年は、スコーネ地方を舞台にしたヘニング・マンケルのミステリー「クルト・ヴァランダー」シリーズを読んだ。そしてその舞台を今年の二月に訪れた。今年、僕はストックホルムを舞台にしたミステリー、シューヴァル/ヴァールー共著の「マルティン・ベック」シリーズを読んでいる。そして、今回もやはり、その舞台を自分の目で見てみたくなったのだ。
ヘニング・マンケルは現在活躍中の作家だが、マイ・シューヴァル、ペル・ヴァールー夫婦によるこのシリーズは、一九六〇年代、七〇年代のストックホルムを舞台にしている。夫のヴァールーは三十年前の一九七五年に既に亡くなっている。そういう意味では、主人公マルティン・ベックの住んだ当時の街の雰囲気を、今もなお味わうことができるかどうか、分からないのだが。
昨年の暮れに行ったヴェネチアでも、僕はドナ・レオンのミステリーに登場する「コミッサリオ・ブルネッティ」の足跡を追った。小説を読むと、その場所に行ってみたくなるのが、どうも僕の病気らしい。妻は今回のストックホルム行きを「お父さん、読書の旅」と名付けた。
今回のストックホルム行きには、もうふたつ口実がある。そのひとつは妻との結婚二十周年記念旅行。実は、昨年が二十年めだったのだが、妻の体調が悪く、旅行ができなかった。それで、今回は久しぶりに夫婦ふたりでの旅行を考えたのだ。しかし、何故か娘のミドリ、十六歳も一緒に付いて来てしまった。だから、瘤つきフルムーン旅行というところだ。
もうひとつは、北欧を夏至の時分に訪れたらどうなるのか、試してみたかったこと。北緯五十一度のロンドンでさえ、夏至の頃は朝四時に太陽が昇り、日没は夕方九時。それから更に上、北緯六十度のストックホルムではどんな風なのか、興味があった。もちろん白夜を体験するためにはもっと北のラップランドまで足を伸ばさなければならない。しかし、ミドリの調査によると、夏至の頃、ストックホルムの日の出は午前三時前、日の入りは午後十一時だと言う。十一時に日が沈むなんて、何となくワクワクする体験ではないか。
但し、今回は仕事や時間の制限もあって、一泊旅行。二十八日の早朝に出発して、二十九日の深夜に戻るという強行軍だ。ルートンからヴェステロスまでは二時間弱の飛行。一泊の滞在でも結構ストックホルムの街を見ることができるだろうと期待して、僕らはルートン空港からライアン航空の飛行機に乗り込んだ。