最後もまたカオスが支配
毎日会って友達になったイタリアの犬
サウゼ・ドゥルクス滞在も、お尻に青アザを残したものの、怪我も無く、無事八日が過ぎ、ロンドンへ戻る日曜日の朝になった。私たちがスキーをしている間、気温は一度マイナス十六度まで下がったが、ずっと素晴しい天気で雪は降らなかった。ゲレンデではあちこちで、雪を作るスノーガンが、雪を吹き上げていた。その横をリフトで通ると大変。突如として、吹雪の中に迷い込んだ気分。ともかく、村には雪がなく、道路は乾いていた。
しかし、土曜日の午後から雲が広がり始め、風も強くなってきていた。日曜日、目が覚めると、雪が降っていた。朝食の前、まだ薄暗い中、私は郵便ポストまで、昨夜書いた絵葉書を出しに行った。雪化粧をした村は、昨日までと全く違って見えた。
雪でバスがホテルの前まで上って来られないと言うので、私たちは、雪の積もった石畳の道を、重い荷物を引っ張りながら、バスの停まっている場所まで、五百メートルほど歩いた。これはかなり重労働であった。最初に自分の小さめのスーツケースをバスに積み込んだ息子が戻ってきて、娘の大きなトランクを運んだ。手の空いた娘は、近くのおじさんのリュックサックを持ってあげていた。
やっとのことで、バスに乗り込み、トリノへ向かう。途中、ずっと雪が舞い、地面には薄く雪が積もっていた。トリノへは九時に着き、十時前の飛行機に乗り、昼までにはロンドンに着く予定であった。しかし・・・
一週間前、着いたときと同じ数の乗客がまた飛行機に乗り込むとあって、空港はまたまた混乱の極致、カオスの坩堝と化していた。私たちの乗る、ギャトウィック行きのチェックインカウンターはわずかに一箇所。そこに二百人以上の乗客が、それぞれ、大きな荷物を持って並んでいるのである。空港の職員の手際が悪いので、一グループ搭乗手続きをするのに五分くらいかかっている。出発の時間になった。列は全然進まない。まだ、二百人近い人たちがチェックインを済ませていない。
「ブリタニア航空。六六六便にご搭乗のお客様は、至急、搭乗口までおいでください。」
という放送が入る。私たちの乗る飛行機である。待っている人たちの間から、失笑が起こる。
「まだ、半分もチェックインしていないのに、どうやって飛行機を飛ばすんだよ。」
数人が言った。私は、息子にピザを買いにいかせ、リュックサックの中のブランディーをチビチビやりながら、気長に順番を待った。
結局、飛行機は三時間以上遅れて、午後一時にトリノを飛び発った。遅れ原因は、天候でも、故障でもなく、単なる空港の設備、人員の不足なのである。こんなの初めて聞いた。
ギャトウィック空港に到着後、電車でヴィクトリア駅へ出て、そこからタクシーで家に戻る。着いたら午後六時。イタリアから英国に戻るのに十時間かかったことになる。スキーは楽しかったが、行き帰りは本当に疲れる旅行であった。でも、スキーは定期的にやらなければ上達しないような気がする。来年も行きたいような、行きたくないような。(了)