沈黙のリフト

 

リフトで出会った可愛い娘?

 

 サウゼ・ドゥルクスのスキー場には、二人乗り、三人乗り、四人乗りのリフトがあった。あと、「ドラッグリフト」と呼ばれる、私の苦手なズルズル引っ張り式のやつもあったが。スキー学校の途中などで、英語の話せる相手とリフトに乗り合わせると楽しい。会話が弾んで、リフトに乗っている時間が短く感じられる。

しかし、英語を全然話さないイタリア人のお兄ちゃんなんかと二人乗りリフトに乗り合わせると具合が悪い。リフトに乗っている時間は十五分から二十分と結構長い。一応、挨拶だけどもした方がいいかなと思って、私は彼に「ボンジョルノ」(こんにちわ)と言う。あと、私の知っているイタリア語は「イオ・ソノ・ジャポネーズ」(日本人です)と、「ロンドラ」(ロンドン)、「イングラテラ」(英国)くらいのもの。会話は続かず、その後十四分間、沈黙がリフトを支配するのである。リフトの終点が近づいて来ると、その沈黙から逃れられると思い、ホッとする。

反対に、話好きのおばちゃんが同乗者だと、それはそれで困る。こちらが「ボンジョルノ」で挨拶をした後、相手が延々と話し続ける「チンプンカンプン分かりまへん」と言うイタリア語を、「フンフン」と相槌を打ちながら、ニコニコと聞いていなければいけない。これも疲れる。この時も、リフトの終点が近づいてくるとホッとする。

 子供たちのスキー学校も開催されており、その子供たちもリフトに乗る。しかし、子供同士だと危ないからか、必ず大人と一緒に乗せていた。私も一度、二人乗りのリフトに六歳くらいの子とペア乗せられた。ヘルメットを被って、ゴーグルをしているので、男の子か女の子か咄嗟には判断がつかないが、ヘルメットの下から長めの金髪が覗いているので、女の子だと推測する。その時、女の子が英語で言った。

「あんた、英語喋れる?」

絶対にイタリア人だと思っていたので、突然、英語を喋りだしたときには驚いた。聞いてみると、彼女のお父さんはイタリア人、お母さんが英国人だそうである。名前を聞くと、「ジュリア」だと言う。年齢は六歳。

「おじさんの娘もジュリアって言う名前。偶然だね。うちにはもうひとり娘がいて、その子はモニカって言うんだけど。」

わたしがそう言うと、ジュリアはこう言った。

「わたしは今、おばさんの家に泊まっているの。そのおばさんはモニカっていうの。」

「ふーん。おもしろいね。」

話題はクリスマスプレゼントのことになった。彼女はクリスマスプレゼントに、スキーの靴とスキーの板をお母さんから貰ったそうである。(まさに彼女が今履いているやつ)よく見ると、板には「ジュリア」と名前が書いてあった。そのあと、私は日本の話をした。

「日本って中国じゃないの。」

彼女は言った。リフトの終点が来た。ジュリアと私は勢い良く、リフトから飛び出した。