あとがき

 

セミがいなかったので、ちょっとセミの代わりに鳴いてみる。

 

 僕は帰りの飛行機の中でも、パソコンを持ち出してこの旅行記を書いていた。スクリーンでは「ピンクパンサー」の映画をやっている。ピーター・セラーズのやつではなく、スティーブ・マーティンがクルーゾー警部役の新しいシリーズである。「トーマス・クック」の飛行機の中では、イヤホーンを借りるのに二ユーロ五十払わねばならない。それで、僕はイヤホーンを付けていない。つまり、音声なしで画面だけ見ているのである。しかし、画面だけを見ていても、十分に筋が理解できて、十分に笑える。いや、登場人物が今何を言っているのかその台詞さえ想像がつく映画であった。きっとこの映画はとんでもない駄作かとんでもない傑作に違いないと僕は思った。

 ともかく、そのようにして書き連ねられた旅行記、サントリーニ島から帰って十日後、十月十七日にやっと最終章を書き終えた。旅行をしている時間も楽しいけれど、旅行が終わってから、もう一度その出来事や印象を再構築して、旅行記にまとめるというのもなかなか楽しい作業である。そっちの方が楽しかったりして。(まさか、そうすると旅行記を書くのが目的で、旅行が手段になってしまう。妻はそうじゃないのと言っているが。)そして、いつも同じことを書くが、旅行記を書き終えたとき、初めてその旅行が終わったような気がする。

 本文に何度も書いたが、今年はマユミと結婚して二十五周年、銀婚式である。この後の金婚式は五十周年。誰が決めたか知らないが、「銀」から「金」までそれまでと同じ二十五年というのはちょっと長すぎるのではないかなあ。せめて、十年おきに「なんとか婚式」を設定して欲しかった。これまで三人の子供達がいたので、ここ二十数年、マユミとはふたりきりで旅行することがなかった。久しぶりに妻とふたりで旅行して、なかなか新鮮で良かったと思う。それが一番の収穫かな。

 サントリーニ島は一言で述べると、「可愛い」島だった。島で出会った日本人の若い女性は「ロマンチックな」島だと表現した。物価が高いのが「玉に瑕」であるが、中国人観光客が押し寄せるのも無理はない、独特の雰囲気を持った場所であった。今年はこれで、クレタ島、サントリーニ島というエーゲ海の島で合計三週間過ごしたことになる。

「ボチボチ、エーゲ海も飽きた?」

と妻に聞いたが、まだまだ見たいという。彼女はもう、来年ミコノス島、ロドス島あたりに行く気になっている。今年は景気が悪く、仕事が暇だったので、結構休みが取れてあちこち行くことができた。来年はどうなることやら。でも、これ以上不景気が長引くと、クビになるかも知れないし、やはり景気の回復は待たれるところである。

 本文中、妻と僕の会話は日本語、ドイツ語での会話の部分はその旨を明記し、それ以外の会話は全て英語であると考えていただきたい。次にギリシアに行くまでに、是非、ギリシア語を勉強したいと思う。

気温が五度の曇り空の朝、ロンドンにて筆を置く。

「終わったあ〜!」

 

僕に無断で「モト」と名付けられた「危険な」四輪バイク。でも、老いも若きもこれに乗っていた。

 

− 了 −

 

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