イレーネの店の流行っている理由
ダンスのステップを踏む、マユミとその他のお客。
「皿叩き割りダンス」が済むと、「皆で一緒に踊りましょう」コーナーである。映画で見る限り、ギリシアのダンスの基本形は、腕を広げ、足を一歩ずつ踏み出しながら、指をパチンパチンと鳴らすというパターンのように思える。また、前にも書いたが、「その男ゾルバ」のラストシーンは、ギリシア人のゾルバと、英国人の青年が、海岸で方を組んでダンスをしているところである。肩を組んで踊るというパターンもあるらしい。
今日イレーネが教えてくれるのは、その「ゾルバ・パターン」。マユミと十人ほどの客が、店の奥に集まる。横一列に肩を組み、イレーネからステップを教わっている。僕は写真係なので参加していない。音楽が始まる。再び「その男ゾルバ」のテーマ。それに合わせて、イレーネを先頭に、肩を組んだ一段が、横にステップを踏みながら移動していく。音楽がどんどん早くなり、店を一周してお終い。
「ステップは全然難しくない。」
とマユミは言う。僕は、最初の日、ドイツ人の夫婦が店の前で踊っていたのを思い出した。彼らはこのようにして踊りを覚えたのである。
その後、「観客参加皿叩き割りダンス」。いくらなんでも直径三十センチの皿を次々割られたのでは値が張るのか、直系十五センチくらいの小さな皿が希望者に手渡され、イレーネを真似て、一通り踊った後にそれを次々に叩き割っていく。参加したマユミによると、皿は「それ専用」に作られたもので、ペラペラのものだったという。
その後、観客がギリシア民謡にあわせて踊るコーナーがある。短調のメロディーは日本の演歌のメロディーと酷似していた。エジプトでも、向こうの歌謡曲が、日本の演歌と似ているので驚いたことがある。僕もマユミと踊る。ステップは会社のクリスマスパーティーの前、即席の秘書のおばさんにコーチしてもらったもの。
とにかくイレーネの多芸さとバイタリティーにまたまた圧倒されてしまった。しかし、彼女の店はエンターテインメントだけではなく、システム的に優れていると思う。例えば、彼女が飲み物のオーダーを取って、例えば客が、
「ハイネケン・ビール」
と言ったとしよう。彼女は即座に飲み物係のウェイターに、
「十二番さん、ハイネケンひとつ!」
と叫ぶ、すると十秒後にはもうビールが出てくるという仕組み。飲み物とパンを最初に出しておけば、多少料理が遅くなっても、客は待たされていると感じないであろう。これはひとつの例であるが、彼女の店は、客を待たさないよう、また、客に待ったと感じさせないように、全てが上手にシステム化されている。勉強になった。しかし、あの歯磨粉の味の食後酒だけは何とかして欲しい。
十時半ごろに店を出て、そのままワインのほろ酔い気分の中で眠る。サントリーニ島で過ごす夜もこれが最後。明日、飛行機は午後。午前中、今日行けなかったアンシャント・ティラに行こうかとも考えるが、面倒くさいのでやめることにする。もう十分に見たもん。
もう、またこんなに割って。片付ける者の身にもなってえな。