信号連立、ジャマイカ連立

 

 土曜日の朝から始まったシステムの切り替え作業は、順調に進み、土曜日の夜には終了。それで、日曜日は「待機」に、つまり仕事をしなくてよくなった。日曜日の午前中、僕は一時間半ほど走った。そして、午後は電車でデルフトに行ってみることにした。

 昨年、オランダの画家、ヨハネス・フェルメールを題材にした「真珠の耳飾の少女」という映画を妻と一緒に見た。コリン・ファースとかスカーレット・ヨハンソンが出ていた、渋めの映画だった。その舞台になったのがデルフトだ。スキポール空港から電車で四十分。小さな町なので、観光は一時間もあれば十分って感じ。古い運河が印象的だった。

 午後六時ごろ、ホテルに戻り、缶ビールをグラスに移し、テレビを付けると、ドイツの放送局で「選挙特集」をやっていた。その日は、ドイツ総選挙の投票日だったのだ。

 先週、デートレフの家に泊めてもらったときも、選挙が話題に上った。これまで野党だったキリスト教民主同盟が優勢で、その女性党首アンゲラ・メルケルがドイツ史上最初の女性首相になるのではないかと予測されていた。それに対して、奥さんのビアンカが、 

「女性首相なんて、全然ピントこないわね。」

と言った。

「フラウ・メルケル個人に抵抗感があるの、それとも女性首相自体に抵抗感があるの。」

と僕はビアンカに聞いた。ビアンカは、

「女性が首相をやること自体に違和感を覚えるの。」

と言った。ドイツの女性は、同性の首相の誕生を待ち望んでいるのではないかと想像して僕にとって、ビアンカの言葉は意外だった。デートレフは、今まで劣勢を伝えられていた現首相ゲーハルト・シュレーダー率いる社民党が猛烈に追い上げていて、結果はどうなるか分からないと言った。また、自民党の党首、ヴェスタヴェレは自分がゲイであることを認めていて、その正直さにはかえって好感が持てるとも、彼は言った。

 果たして、その日の結果は、デートレフの言っていた通りになった。キリスト教民主同盟と社民党の差はわずか一パーセント。民主同盟がパートナーの自民党と組んでも、社民党がこれまでパートナーだった緑の党と組んでも、どちらも過半数に達しない。つまり、意見の違う他党と無理矢理連立しない限り、どの党も政権を握ることができないのだ。

 その夜も、どのような連立が可能かということが、特集番組で論議された。そのうち、「信号連合」とか「ジャマイカ連合」とか、聞き慣れない言葉が飛び交い始めた。何やねん、それは。

そのうち分かってきたぞ。ドイツの政党は皆それぞれの「色」を持っている。社民党は赤、民主同盟は黒、緑の党はもちろん緑、自民党は黄色と言った具合。社民党、緑の党、自民党が連立したら「赤、緑、黄」でこれすなわち「信号連立」。民主同盟、自民党、緑の党が連立したら「黒、黄、緑」で、ジャマイカの国旗と同じ色になるので「ジャマイカ連立」。ちなみに社民党と民主同盟の大連立は「象連立」と言うそうな。何故だろう。

 

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