列車は定刻にやって来る

 

毎朝出勤途中の車の中で聴いているBBCラジオのニュース番組「ツデイ」に「今朝の新聞から」というコーナーがある。今朝の新聞の主だったニュースを紹介する。そこで「笑えるニュース」というのを最後にひとつ紹介する。先日こんな話題が紹介された。

英国の南西鉄道の車両を作っているドイツのジーメンス社が、英国車両専用にテストコースを作った。そこはわざと線路はガタガタに作ってあり、架線の電圧も不安定になるようにしてある。つまり、英国の鉄道と同じ状態にしつらえてある。そこでテストをしてちゃんと走った車両を初めて合格として英国に送り出すことにした、と言うことである。

英国の鉄道は「遅い」「汚い」「時間に不正確」と三拍子揃っていると言うが、本当によく止まるし、よく遅れる。インターネットで日本のニュースを見ていると「横須賀線事故で運転を見合わせ」「山手線飛び込み自殺で遅れ」などと言うニュースが載っている。これも、たまに起こるからニュースになるのであって、英国でこんなニュースをいちいち載せていたら、それだけでニュースが埋まってしまう。

「信号の故障」「架線の故障」「車両の故障」と言うテクニカルな理由で列車が遅れることも多いが、時々「ノー・ドライバー・アベイラブル」つまり「乗務員の都合がつかない」と言う理由で列車がキャンセルになる。電車はホームに停まっているが、運転手が現れなかったと言うことであろう。嘘をつかないで、それを正直に客に伝えるところが、英国人らしい誠意の表現であろうか。それほど大幅に遅れなくても、我家の近くを走るテムズリンクという電車は、七時四十五分発と言っても、たいてい一、二分の遅れで運行されている。遅れも慣れてしまえば、だんだん、それが当たり前に思えて、腹も立たなくなるから不思議なものである。

日本に帰国して、まず驚くのが、列車が極めて時間に正確に運行されている点である。特に新幹線など、何百キロという距離を走りながら、十秒と違わない正確さ。八時三十五分発の新幹線を待っていると、三十三分には向こうに黄色い先頭車のライトが見え、列車が三十四分にホームに静かに滑り込んできて、三十五分には一秒と違わずまた発車していく。その光景に私は感動した。

ドイツの国鉄も時間に正確だと言われており、事実ヨーロッパでは格段に正確なのであるが、それでも長距離列車はいつも数分の遅れがある。「一秒違わず」と言うのは、本当に日本だけだと思う。

日本に帰るとき、私はいつも「ジャパン・レールパス」という日本国内二週間JR乗り放題という切符を買う。これは海外からの旅行者しか買えないので、検察の時この切符を見せると、車掌が「サンキュー」と言ってくれることがある。この切符があるので、京都から大阪に向かうときも新幹線。普通は阪急電車かJRの新快速が一般的な交通手段なのであるが。しかし、新幹線に限らず、全ての列車が清潔で正確。日本が世界に対して何が誇れるかと言うと、私はまず一番にこの点を挙げたいと思うのである。