再びブリスベーン
彼らのうち何人が死ぬまでに一度でも島を離れるだろうか。
数時間後、わたしはエキゾチックではあるが(言っては悪いけれど)「原始的な」ソロモン諸島から、飛行機の窓の下に広がる「光輝く」ブリスベーン市の中にある、コンクリートで覆われた近代的な空港へと着いた。
さきほどまでわたしが居た場所と、今いる場所の差は余りにも大きかった。けれど、特にその差を埋める努力をすることなしに、わたしは比較的すんなりと「新しい環境」に入っていけた。空港からのバスは高速道路に入る。街中に眩く輝く電灯やネオンサインを見ていると、わたしがこれまで生まれ育った西洋文明の中にまた戻って来たんだと、わたしは安心感を覚えた。その夜、わたしはソロモンに行く前と同じユースホステルに泊まった。
翌朝、わたしはホステルをチェックアウトして、ブリスベーンの街に出た。空には雲がなく、明るい太陽が照っていた。しかし、風はまだ少し冷たく、暑い場所からやって来たわたしにとっては、少し身を切られるような感じがする。前回ブリスベーンの街を、あてもなく歩き回ったことに懲りて、今回わたしは地図を用意してきていた。今日は夜遅い飛行機の出発時間まで、この町で一日時間を潰さなくてはいけないのだ。
ソロモンに行く前にブリスベーンに滞在したときは、ずいぶん寂しく感じたが、今は全然そんなことはない。天気は良いし、格段に暖かいし、地図はあるし、そして、何よりわたしはその間に「成長」しているのだ。わたしは街をブラブラと歩き、コーヒーショップを見つけると、朝食を取るためにそこに入った。
わたしはコーヒーショップでお茶を飲みながら、窓の外を眺めていた。昨日までいたソロモン諸島が、オーストラリアとの間にある二千キロの距離以上に、遠く離れた場所に感じられる。オーストラリアとソロモンというふたつの場所が、地理的に本当に近い場所にあるのに、まるで地球の反対側にあるのではないかと思われるほど、全てにおいてかけ離れていることを、改めて不思議に思ってしまう。
窓の外を歩いている、ブリスベーンの人々の大多数は、そんな「別の世界」がすぐ近くにあることを考えもしないだろう。そう言うわたしも、少し前までは、この人たちと同じように、そんなことを知らないで歩いていた。わたしは自分の中の「世界」対する認識に、小さいが、確かな変化が生じたことを感じとっていた。
今のわたしはどこから見ても「都会の人間」だ。明るい日の当たるカフェに座り、あまり実用的でない靴を履き、タイトなジーンズを履き、ちょっときどった、ちょっと寛いだ様子で自分の体験を日記に綴っている。しかし、それでいて、今のわたしはこれまでのわたしと少し違うのだ。
どこが違うの?どう言ったらよいのか言葉が浮かばないが、より「世界的な眼」で窓の外を見ているのが自分でも分かる。そして、何より、わたしは自分が住んでいた世界とは「別の世界」があることを知っている。これまでのわたし自身の狭い世界と、都会の生活以上のものを、今のわたしが知っていることに、自分自身一種の満足感を感じていた。
いろいろな植物が絡み合って生きているジャングル。