一安心

 

 救急車と言うものは、病人や怪我人を収容しても、直ぐには発車しないものなのである。それを、今回自分で乗ってみて、初めて知った。

車椅子に乗せられた私は、救急車の後ろの扉の下に付いているリフトで、持ち上げられ、車内へ運び込まれた。車椅子から、ベッドに移される。その後、点滴や採血のための針が腕に刺され、心電図を撮るための電極が胸に貼り付けられる。血圧を測定するために腕に「腕章」が巻かれる。そして、救急隊員が、採血、点滴、心電図や血圧、脈拍の測定を行った後、救急車は出発するのである。私が運び込まれてから、救急車が発車するまで十分以上経過していたと思う。

救急車の中で最初に取られた心電図を見て、救急隊員の女性(彼女はクレアという名前なのであるが)は、

「心電図には異常ないみたいよ。」

と言った。私はその一言で非常に安心した。本当なら、その場で、車から下ろしてもらって、残りの睡眠を家で取りたかった。しかし、事の成り行き上、そうもいかず、私はそのまま、前々日まで入院していたバーネット病院へと向うことになった。救急車は走り出した。深夜、交通量も少ないからか、サイレンも鳴らさず、静かに走っていく。安心したせいか、貰った薬が効いたせいか、胸の痛みも和らいできた。

「大分、楽になった。」

とクレアに言う。年齢を聞かれたので、四十八だと答えると、

「へーえ、とってもそんなに見えないわ。」

と彼女は感心したように言った。彼女と、もう一人のゲイリーという男性と言葉を交わしているうちに、十分ほどで病院の救急外来に到着。

 逆の順序で、車椅子に移され、リフトで地上に降ろされ、私は一週間前に来た、緊急外来に運び込まれた。午前二時半。今日は病人が少ないのか、深夜のせいか、病棟はガランとしている。今回はドクターが直ぐに来た。まだ二十代の、カリブ海岸出身と思われる若いお姉ちゃんである。彼女は、心電図、血液検査、胸部レントゲンをするように看護婦に指示して出て行った。一時間後、それらが終わった頃、彼女はまたやってきた。

「心臓は正常みたい。でも、あなたの心臓にはこの一週間、随分色々なことがあったからね。朝までここにいて、念のために心臓の専門医の診断を受けてください。」

と言うことで、私は、午前四時過ぎ、救急病棟の横にある観察病棟という場所に移された。とても眠いが何故か眠れない。

午前九時、三人の専門医が現れる。問診を受けた後、一番の長老の医者が、私に厳かに言った。

「きみの胸には最近色々あったからね、過敏になっているようだ。痛みは神経か筋肉からで、心臓からではなさそうだ。」

その後、私は服を着て、妻に電話をし、またタクシーで家に戻った。

 

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