GPへ
一月三十日、月曜日。朝七時に出勤。胸の辺りに「違和感」があり、階段の昇り降りに息が切れる。さすがに、危機感を強めた私は、GPの予約を取ることにした。そして、当分、自分の二大レジャーである運動と酒を控える決意をした。酒をやめるというのは、私にとって、「よっぽどのこと」なのである。
GP(ジェネラル・プラクティショナー)とは、私の担当医のこと。英国の制度では、自分をまず特定の担当医に登録し、どんな病気においても、まずはその担当医に相談することになる。風邪や腹痛程度の病気なら、この担当医が治療を行う。更に専門的な検査、治療が必要な場合には、担当医が専門医を紹介し、それから専門医にかかるというシステム。つまり、英国では、いきなり自分の足で専門病院を訪れることは不可能なのである。
このGPも、慢性的に不足しているようで、急速に人口が増えたような地域では、GPの予約を取ろうとしたら、三週間後だと言われたなどという、とんでもない話も聞いた。先にも書いたように、GPの紹介なしには次の治療は受けられない。そんな場合、一体どうしろというのだろうか。風邪なら三週間あれば治ってしまうかも知れない。でも、その間に肺炎にでもなったら、どうするの。幸い、私の住む区ではそんな馬鹿なことは起きていないが。
私のGPはドクター・カッテル。もう十五年来のおつきあいで、人間的にも信頼のおけるなかなか良い医師である。彼の属する「ミルウェイ診療所」には、常時五、六人の医師が働いていて、彼自身が診察できないときでも、他の医師には会えるので便利である。
診療所に電話をすると、カッテル医師は水曜日までお休み、その他の医師でよければ直ぐに会えると言われた。私は少し考えた後、木曜日のアサイチで、カッテル医師に会えるように予約を入れてもらった。
月曜日の真夜中、胸に痛みを感じるようになった。朝起きて、犬を短い散歩に連れていくが息が切れて苦しい。私は、会社を休むことに決め、妻に、八時半になったら診療所に電話をして、どのドクターでもいいから、至急予約を入れてくれるように頼んだ。
妻は電話をかけている。朝はいつも電話が混んでいて、なかなかつながらない。私は妻に、自分で直接診療所の窓口に行って予約を取ってくるからと言った。
自転車で五百メートルくらい離れた診療所に向かう。何故自転車を使うか。はっきり言って、直ぐに息切れを起こす今の自分の体調を考えると、五百メートルの距離を歩く自信がなかったのである。自転車ならある程度独りで転がっていくので、幾分楽ではないかと。
「途中で意識が遠のいて、転んだらかえって危ないではないか。」
という意見もある。しかし、そのときは考えもしなかった。診療所の受付で、ドクター・ロイドと十時十分の予約を取った。まだ九時過ぎだったので、一旦家に戻る。
十時にまた自転車で診療所に向かう。自転車を漕ぐのもかなり大仕事になってきた。待合室で、私は疲れ果てて、肩で呼吸をしていた。間もなく招き入れられたドクター・ロイドは中年の女性医師であった。私は、自分の症状を彼女に説明した。