英国人の死 (Death of an Englishman / Tod eines Engländers

 

 クリスマスを数日後に控えたフィレンツェ。休暇が始まり、国防警察(カラビニエリ)も閑散としている。署長の他はガルナシアと若い見習いのバッキだけ。そのガルナシアもインフルエンザで官舎の自室で寝込んでいる。家族をシチリアにおいて単身赴任のガルナシアス、数日後に妻とふたりの息子の待つ故郷へ帰ることを楽しみにしているが、果たしてその体調で帰れるのか。

 深夜、カラビニエリの電話が鳴る。バッキが電話を取ると、電話の声の主はガルナシアと話したいと言う。バッキは臥せっているガルナシアに気を遣って、自分で電話を受ける。電話の主はある住所を告げる。バッキがその住所に駆けつけてみると、その建物の一階に住む英国人の老人がピストルで撃たれて殺されていた。武器は近くには見当たらない。電話をしてきたのは、その建物の階段と中庭を毎日掃除にきているチッポラという背の低い老人であった。チッポラは前日に夫人を病気で亡くしていた。

 病気のガルナシアに代わり、署長と若いバッキが捜査にあたる。殺されたのが英国人ということもあって、英国のスコットランドヤードから、警部と若いジェフリーが派遣されてくる。

 殺された英国人男性の住まいからは、いろいろな国の通貨で大量の現金と、数日前近くの屋敷から盗まれた美術品が見つかる。またその建物の住人の話から、英国人が深夜いつも荷物を自分の部屋に運び入れてきたこと、彼の死んだ夜、銃声が二回聞こえたことなどが判明する。

 署長は罠を張り、深夜、バッキとふたりの英国人警官と、被害者の部屋で待ち伏せをする。そして、侵入してきたひとりの男を逮捕する。その男はその家の家主であった。英国人と結託して美術品を密輸出したものと署長は推理する。

 インフルエンザの他に、殺人事件。ガルナシアが故郷に帰れる望みは薄らいできた。クリスマスまでにはあと一日しかない。やっと熱の下がった、ガルナシアは署長とバッキから改めて、事件の詳細を聞く。そして、いくつかの不自然な点に気がつく。

 例えば、第一発見者のチッポラは、夫人の亡くなった翌朝に何故仕事に行ったか。またそのとき、何故彼は掃除人の七つ道具であるバケツとほうきを何故持っていなかったか、など。かれは、事件に別の方向から光を当て始める。

 

この物語は、まず若いバッキの観点で、次にふたりの英国人警官の観点で語られる。その中でも、英国人の眼で観察するイタリアとイタリア人の描写が面白い。概して島国に住む英国人は、外国について無知である。また、英語しか話さない。ステレオタイプの英国人が、ステレオタイプのイタリアを見たらこうなるのだ、と思うと笑わざるを得なかった。例えば、彼らが署長の車でフィレンツェの町を行くとき。

「彼らの行く道は複雑な一方通行システムであった。すこし分かり易そうな場所は人でいっぱいで、車が通り抜ける場所などないように思われた。」

私も英国からイタリアに行くと、まったくこの通りのことを感じたものだ。

 結末。権力者や金持ちが真犯人であると、こちらも読んでいて溜飲が下げられるのであるが、今回の結末は、社会の弱者が犯人であり、読み終わって、やるせないような、寂しい気持ちになってしまった。