高速道路のこちらと向こう

 

古いホテルの名前は「牡牛の頭」、きっと何らかの伝統があるのだろう。

 

昼休み、昼食を買いに行くのに、支店にふたりしかいない日本人社員のひとり、アキが付き合ってくれる。彼女は僕の妻と同郷、石川県の出身だという。僕自身も石川県には永く住んでいたので、「ローカルネタ」で話が盛り上がる。

スーパーマーケットでサンドイッチを買う。アキによると、この辺りは「カウンシル・ハウス」(低額所得者の為に地方自治体が安く貸し出しているアパート)が多く、余り「ガラ」は良くない地域だそうだ。そう言えば、スキンヘッドで刺青をしたおじさん達や、スウェットシャツ、トレーニングウェア姿で買い物をするおばさん達が目立つ。

何より、彼らが話している「英語」が聞き取れない。実際、昔ランコーンの工場で働いていたときも、現地人従業員の「リバプール訛り」「マンチェスター訛り」には苦労させられた。「切る」は「カット」ではなく「クット」。「しかし」は「バット」でなく「ブット」なのだ。しかも発音が異なるだけではなく、語彙も違う。例えば、色のことを「カラー」と言わないで「シェイド」と言うとか。

午後、ふたりのお姉さんが倉庫で働くのを見せてもらい、その後ミーティング。六時に会社を出て、車でホテルへ向かう。予約してもらっていたホテルは、高速道路を挟んで空港と反対側の小さな街にあった。「ブルズ・ヘッド」という名前のホテル。「雄牛の頭」の描かれた看板が出ている。いかにもイングランドの田舎のホテルという雰囲気。隣がパブ。小さな商店街と、教会、学校、老人ホームに囲まれている。

パブで夕食を取る。オフィスを出るとき、支店長のテリーが、

「ホテルでも飯が食えるけど、ホテルの隣町に、日本食もやってる韓国料理店があるよ。」

と教えてくれた。

「日本食は毎日食ってるし、せめて出張に来たときくらい、イングリッシュ・フードを食べるつもり。」

僕は笑ってそう答えた。

ホテルの横のパブに行く。英国の田舎のパブの「代表選手」という雰囲気。食事をしている人が、皆、着飾ってきているほどではないが、男性はジャケット着用、女性はスカートをはいている。都会のパブだと、夏にはTシャツにショーツにサンダル履きで飯を食っている人が多いのだが。昼にサンドイッチを買ったスーパーとは、高速道路を挟んでそれほど離れていないのだが、住んでいる人々は随分違うようだ。

まずビールを注文。テリーに言った手前、典型的英国の食事、ギャモン(厚くスライスしたハムのステーキ)と揚げ芋を食う。

夕食後少し辺りを散歩する。午後九時を過ぎているのに、まだ太陽がホテルや教会を照らしている。部屋に戻り、久しぶりに英国のテレビ番組を見る。家では気に入った映画をDVDで見る以外、テレビの前に座ることはない。英国のドラマやバラエティー番組は全然見ない。見ないと分からないし、分からないと見ても面白くない。面白くないから見ない。

久々に英国のバラエティー番組を見る。背景に疎いので、冗談も余り面白くない。

 

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