ドッジボールと巨人の星

 

左側のチームの女性は、ドッジボールが「国技」になっている旧ソ連の某国から来た秘密兵器なのです。

 

 ロサンゼルスに着いた翌日の午後、Y子さんの娘さんのボーイフレンドが遊びに来た。ダスティンと言う名前で、僕の息子と同い年の十七歳のお兄ちゃん。ちょっとシャイで好感が持てる。その日は、ふたりで映画を見に行くらしい。何を見に行くのと聞くと「ドッジボール」という映画だと言う。「馬鹿馬鹿しいコメディーで、大人にはあまり面白くないよ。」とダスティンは言った。

その日はY子さんも休みを取っていたので、「じゃあ僕たちも映画を見ようぜ」と、若い二人と一緒に僕とY子さんも、彼女の運転で映画館へ出かけた。しかし、お母さんと一緒に映画を見るのが嫌なのか、娘さんとボーイフレンドは直前になり見る映画を変更。結局、若い二人と、Y子さんと僕は別の映画を見ることになったのである。

果たして、「ドッジボール」の映画は、面白かった。純然たる喜劇。中途半端にお涙頂戴とか、考えさせようとか、そんな「雑念」を一切排除した、とにかく面白ければよいという映画であった。あまりの馬鹿馬鹿しさに、僕は深い感動さえ覚えてしまった。

潰れかけのスポーツジムの経営者とそのメンバーが、隣に出来た最新式のスポーツジムの駐車場にされかかっている自分たちのジム守るために立ち上がる。その方法は、ラスベガスで行われる「ドッジボール世界選手権」に出場、それに優勝して、その賞金でジムを救おうというのである。ところが、元々人生の落ちこぼれというメンバー構成に加え、俄かチームの悲しさ、地区予選で、ガールスカウトのチームにさえ惨敗。しかし、ガールスカウトのチームが「ドーピング」に引っかかるという幸運で、なんとか本選に勝ち残る。しかし、選手権には、隣のジムのムキムキ筋肉集団を始め、強敵が待ち構えている。

この救いようのないチームを救うために、ひとりの老人がコーチを買ってでる。車椅子に乗った、ほとんどホームレスという老人であるが、実は、かつて、ドッジボールの世界では名を馳せた人物なのである。つまり「あしたのジョー」の丹下段平、「巨人の星」の星一徹という役柄である。星一徹、「幻の名三塁手」。物理学の法則さえも無視してしまう「魔送球」の産みの親。自分の果たせなかった夢を息子に託し、スパルタ訓練で息子を鍛える。このドッジボールのコ−チも全く同じ役柄である。彼のトレーニングはすごい。ボールを避ける訓練だと言って、いきなりスパナを投げつけたり、車がビュンビュン走る通りを渡らせたりする。とにかく、命がけのスパルタ訓練なのである。

さて、ラスベガスでの本選。「神風」と書いた鉢巻をして、フンドシ一丁の日本チームや、ヒットラーユーゲント風のドイツチームももちろん参加している。猛練習の甲斐があって、がらくたチームは決勝まで辿り着く。そして、ベン・スティーラーの率いるライバルのジムとの決勝は同点のまま、サドンデスのペナルティーシュート合戦に持ち込まれる。チームのキャプテン、ピートは、何を思ったか、コーチからもらったスカーフで目隠しをしてそれに臨む。「心眼」、心の眼と言うわけね。「これ、星飛雄馬が、大リーグボール開眼のときに使った手じゃないの。」僕はそう呟いた。どこの国でも考えることは一緒なのである。