気候と人間性に関する考察
今回ロサンゼルスでいろいろな人に接した。Y子さんの家族や友人、入国審査官や、寿司屋のマスター、買い物をした店の店員など。皆さんやたらに明るく、愛想がよかった。
既に書いたが、まず入国時の入国審査官が「けったいな」人だった。私の帽子に興味を示し、私自身ではなく、帽子に対する質問がほとんどであった。
店に入ると、英国に比べて三倍くらいの会話が客と店員の間に交わされる。レジの前まで行くと、必ず、
「ハーイ、ハワユー?」
と聞かれる。英国では「こんにちは」は言っても、「お元気?」とはまず聞かない。しかも、この「ハーイ」が間延びして、「ハ」と「イ」の間が三秒半くらいあるように感じられる。そう聞かれると、こちらも仕方がない、
「ファーイン・センキュー・アンジュー?」
中学一年の英語の授業で最初に習った決まり文句を条件反射的に発してしまう。向こうは、
「ナッツー・バッド」とか、「アイム・オーライ」
とか答えて、それからお金と品物のやりとりがある。しかし、会話はまだ続く。帰り際に、
「ハヴァ・ナイス・デイ」
と言うのがやってくる。そうなると、売り言葉に買い言葉というのも変だが、
「センキュー。ザ・セイム・ツーユー」
と言わざるをえないではないか。相手は、
「アイ・ホープ・ソー」
これでやっと会話が終結する。新聞やチューインガムを買うだけでこれだけの会話。しかし、よく考えてみると、人間関係の潤滑油としての効果はあっても、これだけ中身のない会話も珍しい。
Y子さんと寿司を行ったとき、Y子さんが寿司屋のマスターに、私をロンドンから来たと紹介した。「こちらは天気が良くていいですね。」と言うと、マスターは
「最高ですよ。天気も良いし、人も良いし。どうして、ロンドンなんかに住みたがる人がいるのか信じられない。」
とマスターは言った。
また、Y子さんが仕事の帰りに自動車屋に寄ったとき、そこの日本人の社員に、同じく天気が良くていいですね、と言ってみた。彼は、
「いや、こんなところにいると、人間、頭をやられて パーになっちゃいますよ。」
と言った。
ともかく、カリフォルニアにおいて、その気候が人間の性格に与えている影響は大きいと言わざるをえない。