みんなアメリカ人
Y子さんの息子さんを小学校に送っていったときにも気がついたが、アジア人とメキシコ人がロサンゼルスの町には多い。駅や公共の場所の表示も英語とスペイン語が併記してある。空港の案内なども、英語とスペイン語の両方で放送される。道路を車で走っていても、やたら漢字とハングルが目につく。ロンドンも人種のルツボであるが、ロサンゼルスもそれに負けない雑多な民族で構成された社会であるようだ。
Y子さんが、娘さんに、
「なんとかちゃんはどこに国の人なの?」
と聞いたところ、
「そんなことどうでもいいじゃない。私たちはみんなアメリカ人なんだから。」
という返事だったと言う。まさに正論。なかなか立派なお答えである。アメリカにおける、アメリカ人としての団結力、忠誠心を培う教育は大したものだと思う。
英国ではたとえ国籍が英国でも、インド人は自分のことをインド人だと思っているし、中国人は中国人だと自覚している。「私たちはみんな英国人」と言う自覚は薄い。
バーベキューの材料を買いに、Y子さんと巨大なスーパーマーケットへ行った。本当に民族的に雑多な人たちが買い物をしている。白人、黒人、中南米系の人、アジア人、どれが多数派というわけではない。皆が同じくらいの割合で交じり合っていた。アメリカはだてに「合衆国」と呼ばれていないと私は思った。(いつも『合州国』が正しいと思うのであるが、誰が『合衆国』って最初に訳したのか。)
スーパーマーケットでもうひとつ驚いたのは、皆、ものすごい量の買い物をすることである。そこは大量販売用の特別のスーパーなのであるが、飲み物など箱でしか売っていない。バラ売りはしていないのである。そこで皆が、オレンジジュースやコーラなど、二ダースくらい入った大箱をドーンと買っていく。従ってショッピングカートも馬鹿でかい。
買い物に来る前、Y子さんに、
「シャンプーと、食器洗いのスポンジがないから、買い物のとき、気がついたら言ってね。」
と言われていた。最後レジで待っているとき、スポンジを買い忘れているのに気がついた。
「僕が捜してくる。」
と言って私はスポンジを捜しに行った。確かにスポンジはあった。しかし、一番小さいパックでも二十個くらい入っていた。それをY子さんのところに持っていく。
「あなた、十年分のスポンジを買ってきたの。」
彼女はそう言った。
「じゃあ、半分ロンドンにお土産に持って帰る。」
冗談ではなく、本当にそう思って言ったのだが、実際帰るときには、スポンジを持って帰るのを忘れてしまった。