健康ジュース
その日の午後は、Y子さんとテニスをすることにした。彼女が友人のUさんを携帯電話で呼び出す。Uさんはスペイン人、気の良いお兄ちゃんである。彼はプロのテニスコーチ。当然のことながら、テニスは滅茶苦茶上手い。股下打ちや背面打ちの妙技も見せてくれた。
午後になり一段と眩しい太陽の下、一時間くらいテニスで汗を流す。その後、Uさんはレッスンの仕事があるので帰り、私はY子さんに誘われて「健康ジュース」を飲みに行くことにした。
ジューススタンドという店が、少なくともロサンゼルスには随所にある。車でその中の一軒に行く。カウンターがありその上に「セロリ、ニンジン、リンゴ、マンゴー、オレンジ」などが組み合わせでメニューに書いてある。それらの野菜を、ジューサーで液体にして飲むらしい。「ニンニク、ホウレンソウ」など、ジュースの材料としてはちょっとね、というのもある。
私は「セロリ、ニンジン、リンゴ」と言う無難な取り合わせを注文。Y子さんは、「ニンジン、ホウレンソウ、その他色々」を注文した。作る様子を見ていると、水を一切添加しない。従って、大きなコップに一杯のジュースを作るために、ニンジンなんかは五本も六本も投入されている。なるほど、ジュースを一杯飲めば、ニンジンを生で五、六本むさぼり食ったのと同じであるからして、健康的と言えば健康的である。
「セロリ、ニンジン、リンゴ」ジュースは、甘くて、セロリの芳香がして、なかなか美味しかった。Y子さんのはホウレンソウ入り。赤いニンジンと緑のホウレンソウのミックスであるから、つまり、色彩環の補色関係の組み合わせであるから、何とも言えない色をしている。ドドメ色と言うか、くたびれた阪急電車という色であった。少し味見をさせてもらったが、うーん、と唸りたくなる、何とも表現のしがたい味であった。
数日後、彼女と別のジュースショップへ行った。そこにはカウンターの上に小型のミンチ肉製造機みたいなものが置いてあった。隣のガラスケースの中に緑の草も置いてある。草は日本のカイワレダイコンのように、スポンジ状のものから生えている。その草はどう見ても、そこいらに生えている芝生と同じように思える。Y子さんが、これを「小型ミンチ製造機」で絞って飲むのだと教えてくれた。
ちょうど、後から来たおばさんが、この「青汁」を注文した。店員のお兄ちゃんはナイフで「芝生」を刈り取り、ミンチ製造機の上から突っ込み始めた。機械からチョロチョロと青い汁が流れ出す。それをお猪口くらいの大きさのプラスチックのコップで受け取る。草は大量に投入されるのであるが、汁はほんのわずかしか出ない。出来上がったジュースを、おばさんは無表情で飲み干した。
テニスコーチのUさんの話によると、彼の友人がこの「青汁」を飲んで、お腹に寄生虫を湧かしたそうだ。トイレで、お尻から虫が出てきたのに驚いて、その友人はその虫を持って医者にいったという。でも、虫くらい湧くよな、だって芝生を食っているのだから。